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2018 年度 実績報告書

温位座標に基づく大気エネルギー循環の研究

研究課題

研究課題/領域番号 18J01336
研究機関名古屋大学

研究代表者

菅野 湧貴  名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2018-04-25 – 2021-03-31
キーワードエネルギーサイクル / 質量荷重付平均 / 温位座標
研究実績の概要

等温位面上での質量荷重付き時間平均法(T-MIM)の基本的な理解と基礎方程式系の導出、その解析手法の確立のため、平均子午面循環の3次元構造を調べた。等温位面上での質量荷重付き帯状平均法(Z-MIM)では冬半球の中高緯度に直接循環が見られる。その直接循環にはボーラス速度と呼ばれる非定常な質量輸送の寄与が大きく、地理的にはストームトラック上に局在して分布していることが明らかとなった。また、T―MIMに基づく運動方程式を導出し、運動量収支解析からボーラス速度は非定常波動が作る形状抵抗項とよくバランスしていた。ボーラス速度や非定常波動が作る形状抵抗項は位相依存性の無いことがその空間分布からわかったが、定常な質量輸送速度や定常波動の作る形状抵抗項には位相依存性があることが明らかとなった。
T-MIMにおけるエネルギーサイクルの定式化について考察を進めた。子午面循環の3次元構造の解析から明らかとなった位相依存性の有無をエネルギーサイクルでも考慮するため、Z―MIMでのエネルギーサイクルとは異なる定式化をする必要があることが明らかとなった。
大気の有効位置エネルギーの生成には冬半球における寒気の生成が重要である。その長期変化について特定温位をしきい値とする寒気質量の長期変化から明らかにした(Kanno et al., 2019)。特に、特定温位を低くするほど減少傾向が大きくなり、北極の温暖化増幅とそれに伴う有効位置エネルギーの減少傾向を定量的に明らかにすることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

T-MIMという新しい方程式系における大気循環場の構造や運動量収支の分布といった、エネルギーサイクルの理解に必要な基本的な特徴の理解をすすめることができた。中高緯度においては、傾圧不安定波動の作るボーラス速度が子午面循環の形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、傾圧不安定波動が活発なストームトラック上で子午面循環が局在して分布していることを明らかにした。運動量収支解析からは、非定常波動に伴う循環や形状抵抗項には位相依存性が見られないが、定常波動に伴う循環や形状抵抗項には位相依存性があることがわかり、T-MIMにおけるエネルギーサイクルの定式化では、Z-MIMと異なり特別な扱いをする必要があることが判明した。特に、時間平均エネルギーの収支式から停滞性波動に伴う成分を分離して定式化することが必要である。T-MIMにおける平均子午面循環や運動量収支を計算する手法を確立することができ、エネルギーサイクルの計算のための準備が整いつつある。
大気の有効位置エネルギーには冬半球の寒気の生成が重要である。エネルギーサイクルを気象現象と結びつける1つとして、極域の寒気の量と対比させるための準備として、北極の寒気の量の長期変化を複数の寒気のしきい値を用いて明らかにした。北極域の特に温位が低く冷たい寒気の減少傾向が中程度に冷たい寒気に比べて早く減少していることが明らかになった。将来の変化についてもCMIP5のデータを用いて解析を続けている。

今後の研究の推進方策

T-MIMに基づくエネルギーサイクルの定式化に引き続き取り組む。特に停滞性波動に伴う成分の扱い方の考察をすすめる。また、定式化の済んでいる部分については計算ツールの開発にとりかかる。ストームトラック周辺におけるエネルギー収支解析を全球のエネルギー収支解析の前に行い、そのエネルギーの流れの解明に取り組む。
T-MIMを用いることの利点を強調するために、Z-MIMにおけるエネルギーサイクルの研究も進め、その結果とT-MIMとの比較に取り組む。特に、CMIP5のデータを用いた、地球温暖化が大気のエネルギーサイクルに与える影響をはじめにZ-MIMの枠組みで明らかにする。そして、その研究結果の論文化をすすめる。また、Z-MIMにおける定常成分と非定常成分への分離とT-MIMにおける定常成分と非定常成分の関係性についての整理を進める。地球温暖化の解析の他に、エネルギーサイクルの季節変化についての解析にも取り組む。季節変化の振幅について全球のエネルギー収支や半球ごとのエネルギー収支の理解をすすめる。また、非断熱加熱の役割についても考察する。
有効位置エネルギーの変化について理解をすすめるため、CMIP5のデータを用いた特定温位面以下の寒気質量の将来変化の解析に取り掛かる。特に、温暖化シナリオの違いが21世紀中頃や21世紀末の寒気の量にどのように影響するのか、高緯度から中緯度への寒気流出量の将来変化の大きさを定量的に明らかにする。また、研究結果をまとめて論文化をすすめる。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [国際共同研究] ベルゲン大学(ノルウェー)

    • 国名
      ノルウェー
    • 外国機関名
      ベルゲン大学
  • [雑誌論文] Indicators and trends of polar cold airmass2019

    • 著者名/発表者名
      Kanno Yuki、Walsh John E、Abdillah Muhammad R、Yamaguchi Junpei、Iwasaki Toshiki
    • 雑誌名

      Environmental Research Letters

      巻: 14 ページ: 025006~025006

    • DOI

      10.1088/1748-9326/aaf42b

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] Lagrangian characteristics of cold air outbreaks2019

    • 著者名/発表者名
      Kanno, Y, L. Papritz, T. Spengler
    • 学会等名
      NORPAN Closing Workshop
    • 国際学会
  • [学会発表] Isentropic analysis of Atmosphere-Ocean Interactions during cold air outbreaks2018

    • 著者名/発表者名
      菅野湧貴、岩崎俊樹
    • 学会等名
      日本地球惑星科学連合2018年大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Trajectory analysis for North American cold air outbreaks2018

    • 著者名/発表者名
      Kanno, Y, L. Papritz, T. Spengler
    • 学会等名
      NORPAN Workshop on “Air-sea Interaction Processes”
    • 国際学会

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公開日: 2021-01-27  

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