研究課題/領域番号 |
18J01341
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鵜飼 真成 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 環境温度 / 要求温度 / P-Rチャート / 熱的快適性 / 熱的受容性 / 代謝量 / 着衣量 / パーソナル空調 |
研究実績の概要 |
オフィスで働く執務者を対象とした着衣量に関するアンケート調査と代謝量の実測調査の結果から個々の執務者が熱的中立を実現するために必要とする要求温度の分布を導出した。 夏期オフィスにおける執務者の着衣量の分布は男性が半袖シャツ(0.56 clo)と長袖シャツ(0.68clo)の二峰性であるのに対して、女性は着衣の選択肢が広く、他峰性の分布となっていた。 代謝量の移動平均期間を長くとると、男性は1.1met、女性は1.0metに分布が集中した。これは従来、事務作業の代謝量として想定されてきた値(タイピング:1.1met、ライティング:1.0met)とおおむね一致する。しかし、移動平均期間を短くすると代謝量のピークは0.8met程度となる一方で、2.0metを超える執務者も散見される結果となった。 本研究における要求温度は、PMVの快適方程式に着衣量と代謝量(15分移動平均)の実測値を入力し、さらに風速0.1m/s、相対湿度50%としたうえで、PMV=0となる作用温度(平均放射温度と空気温度が等しい値)とした。 実際のオフィスにおける要求温度の分布は低い側に歪む非対称の形状であり、その平均値は一般的なオフィスにおける温度の設定値(26~27℃)よりも低い事実を明らかにした。要求温度の分布を理解することは、室温の設定値に対するパーソナル空調の環境制御範囲の合理的な検討も可能となるため、今後のパーソナル空調の設計手法の構築に貢献する基礎的なデータになると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来のオフィス等における室内温熱環境の設計条件は、複数の執務者が熱的に中立と感じる物理環境が正規分布に従うと仮定することで、その包括的な特性を満足させる平均値を設計数値目標に掲げてきたと思われる。しかしながら、今年度研究で得られた要求温度の分布は低い側に歪む非対称の形状であり、その平均値は一般的なオフィスにおける温度の設定値26~27℃よりも大幅に低い24.7℃であった。一方で、要求温度の分布のピークが26.9℃であることから、従来使用されてきた温度設定の目標値は、複数の執務者が熱的中立を実現するために要求する温度の平均値ではなく、実際は最頻値を設備技術者が経験的に選択してきたのだと思われる。要求温度の最頻値を設計数値目標にする弊害としては、たとえ空間的に均一かつ時間的に一定の温熱環境が実現できたとしても、執務者からの「暑すぎる」非受容は「寒すぎる」非受容よりも多く発生し、時には強いクレームに発展することが予想される。 執務者の要求温度の分布から温熱的なクレームが発生するメカニズムを明確にしたことはパーソナル空調に必要な環境制御範囲の設計手法の構築に大きく貢献すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで使用されてきたPMVやSET*といった温熱快適性に関する指標は、人体と周囲の環境による熱収支を理論的に追求した後に、定常状態の環境試験室を用いた被験者実験から得られた温冷感申告値と結び付けて評価している。従って、物理的な要素は組み込まれているが、対流空調と比較して放射空調の静穏環境が快適性向上に及ぼす影響は評価しにくい。また、定常状態を基本としているためパーソナル空調を動的に使用した際の評価も難しいとされている。今後は、室内温熱環境の快適性に対して従来の指標とは異なるアプローチから、ZEB化へ向けて重要な課題として議論されてきたパーソナル空調に必要な環境選択幅と理想的なアンビエント環境の最適設計手法の構築を目指す。 今年度の研究では、環境温度と要求温度の確率分布に乗法定理を用いることで定義する確率論的温熱受容性評価法を構築する。また、本評価法を実際に様々な空調システムが導入されたオフィスの評価に適用することで、放射空調のように気流の均斉度に特徴のある空間の快適性向上を明示する。
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