研究課題/領域番号 |
18J01345
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
石塚 紳之介 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 気液界面 / オリゴマー化 |
研究実績の概要 |
フィールド観測される二次有機エアロゾル (SOA) の量を説明するためには,気相中での化学反応以外のメカニズムが必要であると指摘されている.例えば,水を含むエアロゾル界面での化学反応により低揮発性の分子が生成し,安定な核が生成する機構が提案されている.近年,バルクpH<4の気液界面では,二重結合をもつ有機化合物はヒドロニウムイオン (H3O+) からプロトンを受け取り,カルボカチオンを生じることが明らかになった.カルボカチオンは反応性が高く,他のC=C二重結合をもつ化合物と反応し,高分子量体を生成する (カチオン重合).エレクトロソニックスプレーイオン化質量分析法 (ESSI-MS) によって, VOCの水表面での化学反応をその場測定し,SOAの生成や成長における核となりうる高分子量体が水表面でどのように生じるかを調べた. モノテルペン (C10H16) は多くの異性体があり,大気中に~1014 g C year-1放出されている.イソプレンよりも一桁少ないが,蒸気圧が低く,二次有機エアロゾルの材料として重要であることが認識されている.本年度は,6種類の典型的なモノテルペンについて,重合のしやすさについて調べ,各モノテルペン間の共重合の起こりやすさから,水表面でのモノテルペンカルボカチオンの異性化の経路について考察した.b-ピネンが非常に効率的に高分子量体を生成し,その経路が4員環の開環に依ることを明らかにした (開環重合).気相中では開環は起こらないが,気液界面では開環に伴って生成する二重結合が水とpi-H結合を生成するために,開環が安定となるためであることを示唆した.本研究の結果は,気液界面特有の現象であると考えられる.高分子量体は蒸気圧が低いため,SOA生成の核となりうる.水溶性エアロゾルの界面での化学反応を経た,SOA生成経路と,その生成メカニズムを新たに提案した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度において,エレクトロスプレーイオン化質量分析法を用いて,揮発性炭化水素の水表面での化学反応をその場測定し,水界面で生成する新粒子前駆体生成メカニズムについて,新たな提案を行った.酸性気液界面でb-ピネンのカチオン重合が非常に速いことを明らかにした.これは気液界面の水との相互作用によって気相中や有機溶媒バルク中とは異なる,異性化が起こるためであることを突き止めた.気液界面特有の化学反応メカニズムとしてアメリカ化学会のThe Journal of Physical Chemistry Lettersへ論文が掲載されている.また,この生長反応が界面活性剤によって阻害されないことを発見した.気液界面での重合反応がEley-Rideal機構によって進むと考えられ,海のしぶきの化学反応を理解するための重要な示唆が得られた.本発見は,本研究計画以前には想定されていなかった大気エアロゾルの化学プロセスとして極めて重要である.以上より,期待以上の進展があったと結論する.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,酸性 (バルクpH<4) 条件下における揮発性有機化合物のカチオン重合のメカニズムについて調べる.一般的な高分子重合に用いられるスチレン(C8H8) やイソブテン (C4H8) の気液界面への吹き付け実験を行う.イソブテンはバルク有機溶媒中で,イソプレンに比べ100倍程度の速さで重合が進行することがわかっており,昨年度までに行ったイソプレンの実験結果と比較することで気液界面でのカチオン重合の特異性の起源を議論する.また,終端反応として提案されているアルコール化の影響を調べるため,アルコール基を含む揮発性有機化合物の吹き付け実験を行う.
|