運動は、血管機能の改善やAMPK(細胞内エネルギーセンサー)の活性化等を介して糖代謝を亢進する。動物実験の結果より、四肢に対する短時間の虚血再灌流も、血管機能の改善やAMPKの活性化を引き起こすことが示唆されている。これらの背景から、運動と虚血再灌流の併用が相加・相乗的に糖代謝を亢進する可能性を秘めている。そこで本年度は、健常若年男性を対象とし、運動中の虚血再灌流が、糖代謝に及ぼす効果とその作用機序の解明に取り組んだ。 具体的には、健常若年男性10名を対象に、運動中に虚血再灌流を施す試験と虚血再灌流を施さない試験をクロスオーバーデザインで実施した。本実験では、運動前後に骨格筋糖取り込み速度測定、骨格筋生検を行った。さらに、運動3時間後にインスリンクランプを実施し、クランプ中およびその前後でも糖取り込み速度の測定、骨格筋の生検を実施した。その結果、虚血再灌流は、運動による血流量の増加および骨格筋への糖取り込み亢進効果を促進した(p<0.05)。また、運動によるインスリン感受性亢進効果も、虚血再灌流によって促進されることが明らかとなった(p<0.05)。 さらに、本結果が得られた骨格筋細胞内分子メカニズムを解明するため、採取した骨格筋サンプルを用いて、生化学解析を実施した。その結果、運動中の虚血再灌流は、運動によるグリコーゲン利用量、AMPKシグナルの活性化を促進することが明らかとなった。これらの因子は、運動による糖取り込みおよび運動後のインスリン感受性の亢進を正に制御していることが示唆されている。よって、運動中の虚血再灌流は、運動によるグリコーゲン利用、AMPKシグナルの活性化を促進することで、糖取り込みおよびインスリン感受性の亢進効果を促進していることが推測された。 これらの結果は、運動中の虚血再灌流がヒトの血糖コントロールに有効な手段である可能性を示すものとなった。
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