研究課題/領域番号 |
18J01429
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
角谷 美和 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳機能解析研究室, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | コウモリ / ヒューマンエコーロケーション / 超音波バイノーラルエコー / 音像定位 / fMRI / FDTD / 物体形状同定 / アクティブセンシング |
研究実績の概要 |
コウモリは超音波を用いたエコーロケーション(音波を放射し反射音を聴取・分析することで物体を検知)により、視覚の効かない暗闇でも世界を“音で見る”ことができる。本研究は、“音で見る”感覚知覚を科学的に理解し、コウモリの生物ソナーに基づいた生物模倣型感覚拡張技術として応用展開することを最終目的としている。今年度は、予備的研究として昨年度までに取得済みの実験データをまとめ、The Journal of the Acoustical Society of Americaにて研究成果を公開した。また、以下の4つの課題に取り組んだ(行動実験および脳活動計測実験は、被験者本人からのインフォームド・コンセントを得た上で実施)。 課題1:ピッチ変換された超音波エコーを聴取させその音響情報を基に物体の回転方向を弁別させる行動実験を実施し、エコーの録音方法により成績が有意に異なることを検証した。超音波バイノーラルエコー聴取時に特異的に賦活する部位を同定するfMRI実験も実施した。 課題2:FDTD法に基づいた3次元音響シミュレーションにより作成したエコーを用いて物体弁別実験を実施する手法を確立した。3DCADデータを構築できれば容易に様々な物体のエコーを推定可能となった。音波が反射・回折する様子も視覚的に分析可能となった。 課題3:これまで手付かずであった、エコーロケーションで物体の形状を“同定”(物体の形状の種類を特定すること)できる可能性について仮説を立て、その仮説について音響学的および心理学的視点により検討した。物体同定には物体弁別とは異なる音響的手がかりが必要である可能性が得られた。 課題4:コウモリのようにアクティブにエコーロケーション可能なウェアラブルエコーロケーションデバイスの開発を開始した。現在、ピッチ変換の方法について検討を重ね、リアルタイムでのピッチ変換の実装を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の土台となる知見を論文として公開することができた。また今年度より、他分野の研究者にも積極的に協力を要請し、共同研究を進めている。多角的な視点による議論を通して、これまで見えていなかった課題への気づきや実験データの捉え方の変化を体感した。例えば、多感覚知覚を専門とする研究者との議論を通じて、視覚や触覚によるセンシングとエコーロケーション(聴覚)によるセンシングの共通点や相違点について検討し、また本研究の方向性や意義についても改めて見直すことができた。脳活動計測やデバイス開発など初めて取り組む課題がたくさんあったが、様々な方々の協力を得て、少しずつではあるものの研究基盤を固めることができたのではないかと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
課題1:fMRI実験で得られたデータの解析を進め、超音波バイノーラルエコー聴取時に特異的に賦活する部位を同定する。先行研究で得られた結果とも比較し、妥当性の検討も行う。 課題2:音響シミュレーションで作成したエコーと実測したエコーの整合性を検討するために、両者の音響特性を比較する。その後、エコーロケーションによる形状弁別においてどのような錯覚が生じるのか、シミュレーションエコーを用いた行動実験と音波伝搬分析の双方の観点から、調べていく。 課題3:行動実験を実施し仮説を検証するとともに、課題2で確立した手法を用いて物体同定に必要な音響的手掛かりについて詳細に分析していく。エコーロケーションにより得られる形状感に関与する脳部位を同定するfMRI実験も実施する。 課題4:アクティブセンシングシステムの開発を進め、超音波信号を用いたアクティブセンシングにより物体のテクスチャーの違い(粗さ感)を遠隔かつリアルタイムで弁別させる行動実験を実施する。実験と並行してウェアラブル化も進めていく。
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