研究実績の概要 |
フィブリンハイドロゲルの作製とマクロファージに対する機能解析:ハイドロゲルとして既存のゼラチンと新規にフィブリンを準備しハイドロゲルを作製し、マクロファージに与える作用をマウスin vitro, in vivo及びヒト in vitroで解析した。マウスへの植込実験によって、既存のゼラチンハイドロゲルと比較検討を行なったところ、マクロファージのハイドロゲル内浸潤数、M2活性化能のいずれもフィブリンが有意に高いうえ、ゼラチン同様に植込み後数週間で生体吸収されることがわかった。さらに、M2マーカー(CD163, CD204, CD206)の発現を免疫染色で確認したところ、CD204, CD206発現がフィブリンにおいて有意に高かった。以上からフィブリンハイドロゲルがマクロファージの動員とM2活性化において優れた生体材料であることを確認できた。フィブリンハイドロゲル内へのマクロファージ浸潤数をさらに増加させることを目的として、単球遊走能を有するSEW2871(5-[4-phenyl-5-(trifluoromethyl)-2-thienyl]-3-[3-(trifluoromethyl)phenyl]-1,2,4-oxadiazole)のミセル化徐放を検討したが、マウスin vivoでの徐放化には至らなかったため、今後はSEW2871のミセル化は導入しない方針とした。本解析結果は論文発表することができた。(Tanaka R, Saito Y, Fujiwara Y, Jo JI, Tabata Y. Preparation of fibrin hydrogels to promote the recruitment of anti-inflammatory macrophages. Acta Biomater, in press.)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトマクロファージの研究室内実用化に向け事務的・技術的環境整備を行い、倫理審査向けの研究計画書を作成・申請し、研究室内の学生・研究者にヒトマクロファージがいつでも活用できる環境を樹立した。また、ヒトとマウスのマクロファージの使い分けや病理組織学的解析についての基礎的知識の教育を行い、病理学的解析手法の解決策を提示できたことで、所属研究室の解析手法のレベルアップに貢献した。 具体的な研究解析では、フィブリンハイドロゲルのマクロファージに与える作用についての生物学・医学的解析を精力的に行なったことで、当該年度内にActa Biomaterialia誌での論文化に繋がった(Tanaka R, Saito Y, Fujiwara Y, Jo JI, Tabata Y. Preparation of fibrin hydrogels to promote the recruitment of anti-inflammatory macrophages. Acta Biomater, in press.)。当初、マクロファージをハイドロゲル内に動員するための薬剤徐放化が必須と考え、単球遊走作用のあるSEW2871の徐放化を目指したが結果的にはin vitroでの徐放化に成功したものの、in vivoでの徐放化には至らなかった。しかしながら、フィブリンハイドロゲルそのものにマクロファージを動員する能力を有していることが分かり、結果的にSEW2871の徐放化を必要としなかったことは当初予期していない良い結果であった。 その他の解析として、CD163が組織在住マクロファージマーカーでることを示唆するような解析結果や、徐放化薬剤の候補となる可能性のある天然化合物のスクリーニングも進展しており、全体として研究計画が概ね順調に進展している。
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