本研究の目的は、精密測定が進むフレーバー物理現象を通し、素粒子標準模型を超える新物理の姿を見出すこと である。最終年度にあたる本年度は、フレーバーが持つ階層的構造の背後にある理論の有力候補であるフレーバ ー対称性に注目し、その有効理論の構築に取り組んだ。 フレーバー対称性は、標準模型の大きな謎であるフェルミオンの世代の起源・フレーバーの階層的構造の背後にある理論の可能性として動機づけされている考え方である。加えて、新粒子が未だ見つからず、新物理に非常 に感度が高いと予期されてきたフレーバー物理現象において、未だその兆候が現れていないという事実は、なん らかの抑制機構がはたらいていることを示唆しており、フレーバー対称性はその抑制機構としても有力な候補である。一方で、新粒子が未発見の現在、フレーバー物理現象を有効理論を用いて系統的に研究することで、新物理モデ ルの詳細に依存しない情報を引き出すアプローチが重要性を帯びてきている。 このような状況の中、フレーバー対称性を有する有効理論がどのように記述されるか明らかにすることに取り組んだ。フレーバー対称性として、[1]標準模型で湯川相互作用を除く項が有する U(3)フレーバー対称性、 そして[2]湯川相互作用が良い近似で保っている U(2) 対称性に注目した。フレーバー対称性を課した有効理論では、対称性によってフリーパラメータの数が大幅に減らされ、本研究でその有効理論の詳細を明らかにしたことは、現象論アプローチのファーストステップとして有効になるものと考えている。今後は、より詳細な現象論解析の展開や他のフレーバー対称性の可能性に議論を広げていく。
|