研究課題/領域番号 |
18J01470
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 智也 北海道大学, 低温科学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質結晶 / 結晶化 / “その場”観察 / 透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
タンパク質の分子構造を決めるために必要となるタンパク質の結晶は、結晶化の初期過程となる核生成を生じさせることや、結晶欠陥の少ない結晶を育成することが困難である。これはタンパク質の結晶化の過程、特に核生成の時に生じるとされる前駆体の素性や、結晶が成長するにつれて欠陥がいつどのように導入されるかが良く理解されていないことが一因である。本研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた液中“その場”観察法により、タンパク質の結晶化をナノの空間分解能かつ、高速で“その場”観察し、核生成と結晶成長に着目して結晶化メカニズムの統合的理解を目指す。 本年度はTEMを用いた液中“その場”観察を行う際の結晶化条件を決めるため、光学顕微鏡を用いたフェリチンタンパク質の結晶化の“その場”観察、及び、TEMを用いた液中“その場”観察の予備実験を行った。 光学顕微鏡を用いたフェリチンの結晶化観察では、フェリチン結晶の核生成頻度が非常に低いことが分かった。TEMを用いた液中“その場”実験では観察可能な視野範囲が非常に狭くなるため、結晶核の検出が困難であることが予測される。一方で過飽和度を高くするためには結晶化剤となる塩の濃度を高くすることが解決策として挙げられるが、ある濃度以上の塩を用いると電子ビームにより塩が析出してしまう現象が観察されている。塩の濃度を高くせずに核生成を促進させる手法として、不均質核生成を促進させるための基板の導入や溶解度を極端に低下させる貧溶媒の添加などを検討している。一方で結晶化の前に生じるアモルファスを1分子単位の空間分解能で観察することに成功した。このアモルファスは分子の数が数十個からなり、不定形である。またリゾチームタンパク質結晶中に生成した結晶欠陥を捉え、欠陥の生成とその結晶のサイズ依存性を測定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の計画では、フェリチンタンパク質の結晶化をTEMで“その場”観察することを予定していたが、行おうとしている結晶化条件の範囲内ではその結晶の核生成頻度が非常に低いことが分かった。そのため、結晶核をいかに生成させるかという手法の検討を行った。本研究課題では結晶核が生成する瞬間を捉えることが課題遂行に重要となるため、不均質核生成を促進させる基板の導入や貧溶媒を添加する手法を検討できたことについては31年度の計画遂行につながると考えている。また、結晶化の前に生成したアモルファスを1分子の空間分解能で観察できたことは当初の計画以上の進展である。 一方、結晶成長中に導入される欠陥の“その場”観察については、リゾチームタンパク質結晶を用いて当初の計画以上の進展がある。 以上より、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
結晶核の生成を促進させるために検討した核生成のエネルギー障壁を低くする基板の導入、及び、溶解度を低下させる貧溶媒を添加する手法をより詳細に検討していく。これらの手法を用いてタンパク質結晶の核生成頻度の測定を行う。測定した結果を利用し、結晶核の生成をTEMで“その場”観察できる結晶化条件等を導く。その条件のもとで、核生成を“その場”観察することに注力する。 一方で、新たに観察されたアモルファスに関して、結晶核の生成にどのような影響を及ぼすかについて調べる予定である。
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