溶液セルを用いた透過型電子顕微鏡法(TEM)は、結晶化の初期過程である核生成を明らかにできることが期待される一方、その瞬間を捉えることが非常に困難である。これは、既存の溶液セルを用いたTEMでは、観察視野内において結晶化を促進するように濃度などを変化させることが困難であるためである。これを解決するため、放射線分解と溶解度を極端に低下させる貧溶媒を併せた手法や電極を溶液セルに導入して結晶化を促進させる手法の検討を行った。 前者の手法では、塩素酸ナトリウムが飽和したアセトン溶液に電子ビームを照射すると、塩化ナトリウムが結晶化することが分かった。一方、塩素酸ナトリウムが飽和した水溶液に電子ビームを照射しても結晶化は観察されなかった。これらのことは、まず、塩素酸イオンがアセトンの放射線分解によって生成した還元剤により還元され、塩化物イオンが生成したことを示す。また、アセトンに対する塩化ナトリウムの溶解度が非常に低いため、すぐに塩化ナトリウムが溶け切れなくなって結晶化したと考えられる。一方、水の放射線分解ではアセトンよりも強力な還元剤が生成する。これは水溶液でも塩化物イオンが生成していることが期待され、観察視野で結晶化剤濃度を増加できることが期待できる。 後者の手法では、タンパク質分子を電極周囲に集めるには溶液セル自体を設計、作製しなければならないため、既存の電極が搭載されたチップを用いて溶液セルを作製し、コロイドを試料として、電場を印加したときの応答をその場観察した。電極周囲にコロイド粒子が集まり、それが結晶化する様子が観察された。このことは、今回用いた実験系をスケールダウンすることでタンパク質の結晶化に応用に期待できる。このため、タンパク質の結晶化用の溶液セルを設計し、作製に着手した。
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