時間分解マイクロ波分光法により得られるマイクロ波信号と光触媒活性との関係を解明するため、本年度は、近年高効率な水分解用光触媒として注目されているビスマス系の層状オキシハライド(酸ハロゲン化物)を各焼結温度で合成し、得られたサンプルのマイクロ波信号と光触媒活性を比較した。まず、すでに高効率な酸素生成活性が報告されているオキシハライドBi4TaO8Clのマイクロ波分光測定を行ったところ、焼結温度が高いほど結晶性が向上し、マイクロ波信号強度が増大するという、光触媒としては「プラスの効果」があることが明らかとなった。一方で、焼結温度が高いとハロゲン欠陥が増加し、その欠陥が電荷のトラップサイトとして働くことで、マイクロ波信号の寿命が短くなるという「マイナスの効果」も同時に起こることがわかった。このトレードオフにより、この材料には適切な焼結温度が存在することを明らかにした。 このように活性が温度に対して山型になる傾向は、マイクロ波信号の強度と寿命の積をプロットすることで見事に再現することができた。ここまでの結果から、マイクロ波信号の強度と寿命の積を指標とすることで光触媒活性を高速で診断できる可能性が示された。 続いて、Bi4TaO8Clの実験で確立した手法を基に、PbBiO2Clの最適な焼結温度を検討した。マイクロ波信号の強度と寿命の積は600度で最大値を持つ山型となり、最適な焼結温度は従来の報告(700度)よりも100度低いことが示唆された。 実際に600度で焼結したPbBiO2Clの性能を評価したところ、酸素発生速度は従来の3倍に向上した。この酸素発生反応の量子収率(400 nmの光照射)は3%であり、固相反応で合成したオキシハライド光触媒の中では世界最高値を実現した。
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