研究課題/領域番号 |
18J01565
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 将史 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 神経科学 / 意思決定 / カルシウムイメージング / 光遺伝学 / オプトジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究課題は,動物が意思決定において,得られる報酬とそのための行動に対するコストをどのように勘案して意思決定を行っているかを明らかにすることを目的とする.加えて,それらがなされているときの軸索および樹状突起,細胞体の活動の関係を記述することを目指す. 本年度は,報酬と行動コストのうち,報酬に関する大脳皮質内での情報処理過程について,重点的に研究を行った.具体的には,単純な古典的条件づけ課題をマウスに課し,課題遂行時の大脳皮質全域の活動を広域カルシウムイメージング法で,前頭皮質4領域の単一細胞体レベルでの活動計測を二光子カルシウムイメージング法によって観察した. これらによって得られた大規模神経活動データを統計数理モデルを用いて詳細に解析した結果,広域カルシウムイメージングデータからは,神経活動の大半は報酬の有無や刺激に種類によらず,動物の行う運動(今回の課題では舌舐め行動)によって活動がもっともよく説明された.これは領域による差はほとんど見られず,驚くことに視覚野や聴覚野ですらもその傾向があった.一方で二光子カルシウムイメージングによって得られた個々の神経細胞レベルの活動を解析すると,運動によってその活動は説明されるものの,報酬の有無や刺激の種類によってより活動が説明される神経細胞集団が見出された.また今回観察した前頭領域のうち,前頭連合野(高次運動野と一部オーバーラップする)では,他の領域よりも過去の報酬履歴を保持する神経細胞の割合が多かった. これらの結果は,これまで皮質下の脳領域では精力的に調べられてきた報酬に関する情報処理について,大脳皮質においては依然不明であった報酬とそれ以外の刺激や運動の神経表象について,一定の見解を与えるものであり,今後実施予定である『報酬と行動コストの脳内表現および情報処理機構』に迫る上で,基礎的な知見となると考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物が行動決定する際に,行動の結果得られる報酬とそれに係る費用(コスト)がどのように脳内で処理されているかを明らかにすることが本課題の目的であるが,そのためにまず『大脳皮質における報酬の神経表象』を明らかにする必要があると考えた.そのために研究実績の概要において述べたように,『報酬そのもの』の情報がどのように大脳皮質において表現されているかを検討した.それらの結果については論文としてまとめており,早期に投稿を予定している.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって得られた結果をもとに,当初の予定であった『報酬と行動コストによる意思決定』に関する脳内表現を明らかにすることを目指す. 行動に必要とされるコストとそれ完遂された際に得られる報酬を,行動実行前に動物に通知し,その手がかりをもとに行動する・しないを選択させる行動課題の構築を現在行っている.これらの課題構築と課題遂行時の動物行動を検証し,加えて大脳皮質全域に自由に光照射を行うレーザースキャン光学系と抑制性介在神経細胞にチャネルロドプシンを発現する遺伝子改変マウスを組み合わせることで,当該課題に必要とされる脳領域の同定を試みる.現状では先行報告とこれまでの実験結果より,前頭皮質のいずれかが異なる文脈で必要とされると予想している. また同様の課題を用いて,活動抑制実験によって課題遂行に必要とされる脳領域の神経細胞活動を二光子カルシウムイメージングによって記録する.この手法は安定して学習期間を通した計測が可能なため,できるかぎり学習段階に応じた神経細胞活動の変化を得られるよう実験を行う予定である.
|