π共役系ポリマーは、有機薄膜太陽電池(OPV)の発展を支える重要な材料群である。OPVの喫緊の課題である変換効率向上に対する最も有効なアプローチの1つは、効率的に電荷を輸送する「高結晶性ポリマー」の開発である。一方で、p/n型有機半導体の混合膜が良好な相分離構造を形成することが、電荷生成、ひいては変換効率向上につながる。そのため、互いに相溶性が高い必要があり、材料が十分な溶解性を有することも重要なポイントとなる。しかしながら、ポリマーの結晶性向上がもたらす溶解性低下は、過度な凝集を与え適切な相分離構造や、ポリマーの薄膜形成を困難にする。つまり、ポリマーの「高結晶性」と「高溶解性」という相反する要素をいかに両立するか、これがOPVの変換効率向上の鍵となる。 このような観点から本年度は、置換基導入可能なナフトビスピラジン(NPz)骨格に着目し、それを有するπ共役系ポリマーの開発に取り組んだ。特に、電子求引性基であるエステル基を導入したNPzを有するポリマーは、室温の有機溶媒に可溶なほど高い溶解性を有する一方で、2D-GIXD測定により高い結晶性を有することがわかった。また、ポリマーのエネルギー準位を評価したところ、深いエネルギー準位、特に、深いLUMO準位を与えることが明らかになった。それに伴い、ポリマーの吸収は近赤外領域まで達した。これらの結果は、NPzの電子欠損性が向上し、ポリマー鎖間のπ-π相互作用を促進したためであると考えられる。 このように、本年度開発した種々のNPz骨格は、半導体ポリマーのビルディングユニットとして有望であり、得られた一連の結果は、高性能なNPz系ポリマー創出のための有用な分子設計指針になり得る。
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