研究課題/領域番号 |
18J01703
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
草木迫 浩大 北海道大学, 獣医学研究院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | マダニ / 過酸化水素消去酵素 / カタラーゼ / 組換え蛋白質 / 次世代シークエンス解析 |
研究実績の概要 |
ヒドロキシラジカルは、生体に高度な酸化障害を引き起こすが、半減期は短く、制御は困難なため、半減期が長くかつその前段階の過酸化水素(H2O2)を制御する方が、生物に有利である。マダニは発育期で吸血が必須で、宿主血液は鉄を大量に含み、体内では多量のH2O2発生が予想される。つまり、マダニ体内におけるH2O2制御は、マダニの発育に不可欠である。一方、マダニはH2O2消去酵素かつヘム含有蛋白質であるカタラーゼ(Cat)遺伝子を有するが、ヘム合成・異化経路を欠損する。また、マダニにおいて、Catを自身で合成不可だが、蛋白質レベルでの存在が示唆される。このため、マダニ体内に存在するCat蛋白質がマダニまたは共生微生物由来と仮説を立て、マダニと共生微生物が維持すると考えられるマダニ体内環境を破綻させるマダニ防圧法を考えた。 前述の仮説を基に、マダニ体内におけるCat遺伝子を、マダニ由来・共生微生物由来に分類する。まず、マダニの吸血期別(未吸血・吸血2日目)に主要臓器(中腸・卵巣・唾液腺)またはマダニ個体を採材し、RNA抽出後、トランスクリプトーム解析を行い、マダニの吸血期に関連するマダニ体内での機能性遺伝子の候補を選定した。その結果、マダニ由来Cat遺伝子は同定できたが、微生物由来の機能性遺伝子については、現在も解析を遂行中である。 得られたマダニ由来Cat遺伝子配列(HlCat)は、ORFが1,500bp、499アミノ酸からなり、推定分子量は57.1 kDaでカタラーゼドメインを有していた。他生物Catとのアミノ酸配列比較により、高い相同性を有していた。次に、HlCat遺伝子配列を基に大腸菌で組換え体を作製し、その抗酸化活性をで調べたところ、抗酸化能を有していた。以上の結果から、同定されたHlCatは、一般的なカタラーゼと似た構造をしており、同様に抗酸化活性を持つことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、マダニ個体または臓器から RNA を抽出した後、トランスクリプトーム解析を行っているが、非モデル生物であるためゲノム情報が不十分であり、in silico 解析のパイプラインも試行錯誤の段階である。このため、当初予定していた共生細菌由来の機能性遺伝子の同定については、継続して遂行中である。しかし、マダニ由来の Cat 遺伝子の同定には成功しており、実際に同定したマダニ由来 Cat 遺伝子配列を基に大腸菌を用いた組換え蛋白質の作製並びに in vitro 系における組換え蛋白質の抗酸化能の検証を行うことができた。以上から、当初予定していた計画から少し遅れてはいるが、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年2月20-22日並びに3月13-15日に愛知県の基礎生物学研究所にてRNA-seqのデータを用いた解析に関する講習を受け、解析手法を学んだ。このため、今後は、講習で学んだことを応用してマダニ由来の共生微生物の機能性遺伝子の同定を進めていく。また、平成31年4月1日から4月5日かけて、ベルリン自由大学のNijhof博士を訪ね、人工膜を使用したマダニの人工吸血系の手技を学んできたため、マダニ並びに共生微生物由来の機能遺伝子解析への応用を目的とし、日本産マダニを用いた人工吸血系の確立も進めていく。日本産マダニの完全な人工吸血系の確立に関する研究は、平成31年度若手研究の課題として採択されている。さらに、マダニ由来のCat遺伝子を同定できているため、マダニ体内における発現動態並びに局在解析、二本鎖RNAを用いた遺伝子ノックダウン解析を進めていく。
|