研究実績の概要 |
ラン科植物は共生菌から得た栄養を種子発芽に利用するため,特定の共生菌と共生できるかが発芽に大きく影響する.自然界では成熟した親個体の周囲で発芽率が高まる現象 (ポジティブマザーエフェクト) が複数の地生ランで報告されているが,これは親個体の周辺に共生菌が多く分布するためと考えられている.しかし群集レベルで真菌類の分布に違いがあるかについては不明である.そこで本研究ではキンラン (Cephalanthera falcata) の成熟した親個体からの距離により真菌群集が異なるか,真菌類の分布と発芽率には相関があるかについて,鳥取大学・蒜山の森にて調査を行った.親個体から0.1, 1, 2, 3 mの地点および周囲に親個体が存在しないに地点にナイロンメッシュに包んだ種子を埋土し,1年後に回収して観察した結果,親個体の周囲に埋土した種子は発芽していた.一方親個体から離れた場所では発芽せず,先行研究の結果を支持した.種子を埋土した土壌を真菌類のITS2配列を用いたアンプリコンシーケンスに供し真菌群集を解析した結果,属レベルでは成熟個体からの距離に応じた群集組成に明確な違いは認められなかった.一方OTUレベルでは発芽種子で優占していた4種のOTUが成熟個体の周囲で多く検出された.系統解析の結果これらはTomentella属菌と最も相同性が高かった.興味深いことに,Tomentella属に分類されるOTUは調査した土壌に普遍的に分布したことから,特定のTomentella属菌のみが発芽に貢献していると考えられた.以上の結果から,キンランの発芽と共生菌の分布には正の相関があるものの,共生菌以外の真菌群集は発芽に影響しないことが示唆された.
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