研究課題
日本を含め世界的に社会の高齢化が進んでおり、医療費の増大が予想されるなど、加齢関連疾患の治療法開発は喫緊の課題となっている。糖尿病や動脈硬化・心不全は加齢関連疾患であるとともに、肥満が発症リスクとなる生活習慣病である。近年、慢性的な炎症がこれらの疾患の発症機序の一つであることが明らかとなっている。持続的な炎症は組織リモデリングを誘導し不可逆的な組織機能障害に繋がる。肥満によって内臓脂肪では脂肪細胞の変化だけでなく、マクロファージをはじめとする免疫細胞の変化により炎症が誘導され、他組織へ炎症が拡大・波及する。しかし、肥満に伴ってどのように脂肪炎症が惹起するのか、そのトリガーを引く分子機序はあまり分かっていない。興味深いことに我々は、脂肪細胞へと分化する脂肪前駆細胞が新たな炎症性細胞へ分化することを見出した。この炎症性細胞は、炎症性サイトカインを分泌するだけでなく、ケモカインCCL2を分泌することで、炎症性単球を内臓脂肪に誘引し、炎症カスケードの引き金を引く。興味深いことに、加齢に伴って、内臓脂肪にこの新規炎症性細胞が蓄積することが分かった。高齢者では基礎的なレベルでの炎症が亢進していることから、脂肪前駆細胞による炎症性細胞への分化機構が脂肪組織炎症をもたらし、加齢関連疾患を誘導する可能性がある。そこで、この仮説を検証するために、脂肪前駆細胞から新規炎症性細胞への分化機構を明らかにし、介入を行う。新規炎症性細胞で発現する転写因子に着目し、脂肪前駆細胞株3T3-L1を用いて分化を担う転写因子のスクリーニングを行ったところ、いくつかの転写因子が協調的に脂肪前駆細胞を炎症性細胞へ分化させることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
初年度において転写因子のスクリーニングを行い、脂肪前駆細胞から炎症性細胞への分化に重要な転写プログラムを明らかにできた。加齢や肥満による細胞外環境からのシグナルがどのように脂肪細胞と炎症細胞への分化バランスを変化させているのか、その検討も進んでいるなど、ほぼ順調に解析が進んでいる。
老化や肥満がどのように脂肪前駆細胞の転写プログラムを変化させているのか、その機序を明らかにする。特に、老化ではDNA損傷応答経路が活性化している可能性が高いため、DNA損傷応答機構と分化機構の連関を、ChIP-seqにて解析する。また、肥満では脂肪酸組成の変化や炎症環境が考えられるため、シグナル経路を中心として分化機構を解析していきたい。更には、阻害剤・中和抗体を用いて脂肪前駆細胞から炎症性細胞への分化を標的とした治療方法開発に繋げる。
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Oncogene
巻: 38 ページ: 637-655
10.1038/s41388-018-0481-z.