本年度は走査型透過X線顕微鏡(STXM)-吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を用いて夏季と冬季に採取した微細なエアロゾルに含まれる硫黄、炭素および窒素化学種の混合状態解析を行い、有機硫酸塩エステルの生成過程に関する研究を進めた。夏季に採取したエアロゾルのコアからは硫酸塩と共にイソプレンやグリオキサールなどに由来する二次有機エアロゾル(SOA)が検出された。後方流跡線解析の結果、夏季の試料は日本の山間部を経由した空気塊の影響を受けており、イソプレンなどの生物由来揮発性有機化合物(BVOCs)に由来するSOAが多く含まれていたと考えられる。これらのBVOC由来のSOAと硫酸エアロゾルが共存していることから、SOAの一部が硫酸塩エステルとして存在していることが示唆された。先行研究により大気中におけるBVOCsと硫酸の反応により有機硫酸塩エステルが生成することが報告されており、今回のSTXM―NEXAFSを用いた単一粒子分析の結果と整合的である。一方で、粒子表面(シェル)には腐植様物質(HULIS)が主成分として存在していたが、粒子表面からは硫酸塩は検出されなかった。冬季に採取した試料でもHULISと有機硫酸塩エステルの共存関係は得られなかった。このことから、有機硫酸塩エステルはHULISの主成分ではないこと考えられる。一方で、高分解能質量分析計をを用いた研究ではHULISの構成成分の一部として有機硫酸塩エステルが検出されており、この違いはSTXMと質量分析計を用いた研究間におけるHULISの定義方法の違いによるものだと考えられる。今後、両装置を用いた相互比較を行うことで、より詳細な有機硫酸エステル環境動態の解明に繋がると考えられる。
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