研究実績の概要 |
本研究の目的は探査データと試料データを用いた統合サイエンスに基づき、月に広く分布する火山性領域(“海”と呼ばれる領域)の形成過程とその変遷を明らかにすることである。火成活動の評価には、月探査データと隕石試料の分析結果を組み合わせた統合科学的な手法を提案する。本手法では起源地域が定かでない月隕石についてその化学組成、固化年代、岩石学的特徴等を、月探査衛星「かぐや」や米国のルナ・プロスペクター、ルナ・リコネサンス・オービターが取得した探査データの情報と比較することで、その起源地域を特定しミクロな隕石試料データとマクロな探査データを結びつけた。
本年度は、月隕石の分析結果(元素量、固化年代、衝突履歴、等の情報)と月周回機が取得した元素分布・地質分布の情報を比較し、玄武岩質月隕石(NWA 773 clan, NWA 032 group)の起源地域、起源クレータを推定した。探査データとの比較から、NWA 773 clanは液相濃集元素が月面でもっとも強く濃集している領域Procellarum KREEP Terrane(PKT)内の海玄武岩領域、NWA 032 groupはPKTの外にある海玄武岩領域がそれぞれ起源地域である可能性が非常に高い。さらにNWA 773 clanに関しては、月隕石の衝突履歴とPKT内の起源地域に存在する衝突クレータの産状やクレーター周辺の元素濃度分布の比較から、起源クレータを推定した。月隕石NWA 773 clanの起源クレータ推定に関しては論文にまとめ、査読付の英文学術誌に投稿中である。
将来の月・惑星着陸探査に向け、着陸機や探査車に搭載可能な蛍光X線分析用のX線発生装置(焦電結晶型、CNT型)の検討を進めた。実験結果を基に数値シミュレーションを使って、X線発生装置の性能(計測時間や観測精度)の評価を行なった。評価結果は日本航空宇宙学会の査読付論文誌「Transaction of JSASS, Aerospace Technology Japan」に掲載された。
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