本年度前半は、諏訪湖で採取したアオコを用いて、シアノバクテリアからフィコビリタンパク質を効率的に抽出する手法を検討した。検討した様々な条件の中で、凍結乾燥したシアノバクテリアを水で抽出する方法が最も簡便で効率が良いことが明らかになった。 また、フィコビリン生合成系においてヘムはフィコビリンの上流に存在し、閉環テトラピロールであるヘムが開裂することで開環テトラピロールであるフィコビリンが合成される。したがって、ヘムのδ13C・δ15Nはフィコビリンのδ13C・δ15Nの規定要因を解明する上で有用なデータとなる。本年度前半は、生体中の主要なヘムであるヘムbの定量法および化合物レベルのδ13C・δ15N分析のための精製法に取り組んだ。夾雑物が大半を占める天然試料中に僅かに含まれるヘムbを定量・精製するために湿式分析と高速液体クロマトグラフィー法を組み合わせ、様々な分析条件の元で化合物の回収率や精製度を確認することで、分析法をほぼ確立することに成功した。 確立した手法を用いて、いくつかの試料についてヘムb濃度の定量やδ13C・δ15N分析を行っている。各試料から精製したヘムbのC/N比は理論値と近い値を取っており、ヘムbを化合物レベルで精製できていることを確認できた。δ13C・δ15Nのデータは現段階で解釈することはできないが、今後培養した生物の分析を行うことでフィコビリンのδ13C・δ15Nの規定要因を解明に繋がるようなデータを得ることができるはずである。定量については海水中の粒子状物質・溶存態物質を対象に分析を行っており、ヘムbが前者には0.27 nMと高濃度で含まれているのに対し、後者にはおよそ6 pMと僅かにしか含まれていないことを見出している。このように特徴的なヘムの分布が海洋鉄循環においてどのような意味を持つのかについても今後検討・検証していく予定である。
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