研究課題/領域番号 |
18J01862
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
染谷 隆史 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 原子層物質 / バレーダイナミクス / 光物性 / 励起子 |
研究実績の概要 |
遷移金属とカルコゲンから成る遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition metal dichalcogenide : 以下 TMD)という物質が近年注目を集めている。TMDを究極的に薄くした単層の極限において、空間反転対称性と強いスピン軌道相互作用の結果、バレー自由度という新たな自由度が生じる。このバレー自由度を利用したバレートロニクスは正味電流を流さず、ジュール熱の発生を伴わないことから、省電力デバイスの実現が期待されている。しかしながら、このバレー情報はピコ秒(1兆分の1秒)という超高速な時間スケールで失われてしまうことが、バレー情報を読み出す上での障害となっている。 本研究では、バレー情報が生成され、どのように消滅していくかの全容、すなわちバレーダイナミクスの解明を、レーザー分光による光物性の観点から行うことを目的としている。当該年度は本研究計画の初年度として、装置の立ち上げ、TMD試料の作成などの研究環境を年度前半で整えた。年度後半は実際にそれらの装置、試料を用いたバレーダイナミクス研究を行ったのでそれらの詳細を説明する。 TMDにはスピンの向きは反対でエネルギー的は等価な2つのバレーが存在する。そのため、一方のバレーに生成された電子は短時間でエネルギーの等しい他方のバレーへ散乱されてしまい、バレーの情報を失う。そこで我々は、TMDに磁場を印加し、バレーのエネルギー対称性を崩すことで、より一方のバレーへ電子が留まりやすい状況を実現し、そのときのバレーダイナミクスを調べた。その結果、無磁場下では両方のバレーに均等に存在していた電子が、磁場下においてエネルギーの低いバレーに集まることで、自発的にバレー情報が作り出される様子を観測した。また、この結果から数値シミュレーションを行い、バレー間散乱の増大がボルツマン因子で記述できることを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は実験装置の立ち上げや、試料の作成で多少手間取ってしまったものの、TMDの磁場下バレーダイナミクスに関して、様々な磁場・温度での測定を行い、その様子を実験・理論の両側面から解き明かすことに成功した。 本研究成果は2018年9月、および2019年3月に日本物理学会で発表を行った。また現在は論文を執筆中であるなど、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は磁場印加によるTMDのバレー情報の制御とそのときのバレーダイナミクスの詳細解明を行った。しかしながら、デバイス応用を踏まえると、強力な磁場を印加することは望ましくない。そこで第二年度では無磁場下でのバレー情報制御を目指す。具体的には、強磁性体の近接効果を利用し、TMDに原子層レベルでの局所的な有効磁場を与えることで、磁場印加時と同等な効果を得ることを目的とする。そのため、TMDとのヘテロ構造を作成する物質の選定を行い、試料作成を試みる。これまでの研究で得られたTMDのバレーダイナミクスに関する知見を上手く活用し、本年度の研究に取り組んでいく。
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