研究課題/領域番号 |
18J01885
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
小林 智之 福島県立医科大学, 医学部健康リスクコミュニケーション学講座, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 集団間葛藤 / 東日本大震災 / 集団相互依存観 / 避難者 / コミュニティ形成 / 差別 / 異文化コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究では、福島県内の避難先地区(e.g., いわき市)で浮上している地域文化に基づく集団間葛藤の問題を解決すべく、集団相互依存観に着目した介入技法について検討することを目的とする。対人ストレスや治安の悪化を導く集団間葛藤は、これまで集団間の接触や同化を促すことで軽減することを試みられてきたが、一方で、不用意に両者を近づけることは片方ないしは両方の集団にとって文化的な脅威を招くこととなり、むしろ成員のアイデンティティや満足感を損なわせてしまう可能性も懸念された。そこで、本研究では、内外集団が互いに依存し合っているというものの見方を指す集団相互依存観という概念について検討し、互いに文化を脅威にさらさずに集団間葛藤を緩和させる方法について検討した。 現在、集団相互依存観について概念と操作可能性について検討を行った。概念の検討では、20歳以上の成人2000名を対象にWeb調査を実施し、自分たちの地域コミュニティに着目して、集団の在り方として感情的な側面と規範的な側面について評定するように求めた。また、類似する信念として多文化主義、社会的支配傾向、カラーブラインドネスに関する項目についても回答を求めて、概念としての関係性を検討した。 また、操作可能性の検討では、福島県立医科大学と福島県保健福祉部健康増進課により共同開催されている出前講座と連携し、保健師等を対象にワークショップを実施した。参加者は、避難者がたくさん地域に移り住んだときの町内会メンバーになった場面を想定して、集団相互依存観または共通集団観のいずれかのアプローチをとった際の態度の変化について評定した。いずれのアプローチも避難者に対して友好的になったが、集団相互依存観アプローチのほうが1か月後もその態度が維持されていた。 最終的な介入研究に向けては、いわき市内の復興公営住宅のステークホルダーと具体的な打ち合わせたを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、災害復興に貢献する研究として、福島県いわき市で問題となっている避難者と地元住民とのコンフリクトに対して、集団相互依存観の観点から介入することを目的としている。本研究では、介入技法の開発および効果研究について3年間で3つの研究を行うことを計画している。2年目においては、計画していた研究のうち2つを進め、順調に進んでいる。また、研究活動に関する論考がNatureに掲載された他、国際誌と国内誌で1本ずつ論文が掲載された。 福島県の保健師に向けた研修会などで講師やファシリテータも務め、昨年末の台風19号においては、現場の支援者らに対して研究知見を提供し、積極的に社会貢献を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、前述した目的を達成するために、福島県内の地域文化摩擦における集団相互依存観の役割に関連して、モデルの構築と検証を目的とする。 R1年度までは、地域で実際に活動している保健医療従事者を対象に集団間葛藤に関するワークショップを実施して、集団相互依存観の操作可能性について検討した。その後、集団というものの定義的概念について全国的な調査を実施し、関連する様々な概念との比較に基づいた集団相互依存観に関する概念整理と、集団相互依存観の形成に影響を及ぼす生態学的特徴の探索的な検討を行った。R2年度は、前年度までに行った集団相互依存観の概念整理と操作可能性の検討の結果から、避難者と地元住民の文化的葛藤を解消するための介入技法を開発する。また、福島県いわき市内の原発避難者が住む復興公営住宅と、津波避難者が住む災害公営住宅において、開発した技法を用いた介入研究を実施する。具体的には、各公営住宅の団地内で共同菜園を行い、団地内の成員性を高めた後、育てた野菜を用いて各地域の文化に合わせた郷土料理作りとその提供イベントを行う。イベントの設定において集団相互依存を高める操作を加える。なお、実施にあたってはこれまで打ち合わせを続けてきた地域の支援者らに協力を要請する。 得られた結果については、随時、学会や学術論文の形で報告する。これに関連して、これまでの活動について国内外の学会等や、地域での研修会等によるアウトリーチ活動を行う。
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