研究課題/領域番号 |
18J01906
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
立岡 美夏子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生命理工学センター), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | セルラーゼ / 深海 |
研究実績の概要 |
微生物酵素を用いたセルロース変換技術は、生物資源からの液体燃料・化成品原料の生産の点でも期待されており、律速反応である結晶性セルロースの分解機構を解明することは極めて重要な研究課題である。本研究では、従来の微生物の分離・培養法を用いることが困難である極限環境微生物から有用なセルロース分解酵素を取得することを目指し、貧栄養下である深海に生息するセルロース分解菌のスクリーニングを行った。海洋研究開発機構で開発したセルロースゲルプレートによる分解活性検出技術を用いて新たに得られた3種のバクテリアについて、全ゲノム解析、RNAシーケンスによる発現解析、電子顕微鏡観察等の実験を行った。その結果、深海由来微生物が既知の分解菌とは異なる特徴を持つ酵素群によってセルロースを利用しており、また、それぞれの菌の形態やセルロース資化性の差異にともなって主要なセルラーゼの種類や分泌パターンに多様性がみられることを明らかにした。特に、結晶性セルロース分解に重要と考えられる酵素群については培養条件の違いによる発現パターン及びその詳細について検討を進めている。研究の成果は米国で行われたGordon research conferenceや国内学会複数件で発表を行い、現在論文投稿を進めている。今後はRNAシーケンス等の発現解析による新規酵素の探索を更に発展させるとともに、新規性の高い深海由来微生物に特徴的なセルラーゼについて異宿主発現による機能解析を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子配列から予測される酵素の構造情報等をもとにしたこれまでの結果から、新規性の高いセルラーゼの取得において難培養微生物由来の遺伝子資源からの探索が有用であるという結果を得たため、本年度は新規性の高い3種類のセルロース分解菌について全ゲノムを取得し、それぞれの菌について主要なセルラーゼの種類や分泌パターンの詳細な解析を行った。また、セロビオースを炭素源とする液体培養中及びセルロースゲル上での菌体の様子の違いと、保有酵素の特徴の 違いから、結晶性セルロース分解に特に重要と考えられる酵素群について検討することが可能となった。セルロースゲル分解時に高発現する酵素を精査するため、培養条件の検討及びRNA解析を進めている。また、結晶性セルロース分解において特に着目しているセルラーゼファミリーの中性子構造解析では、これまで得られていなかった水素原子の詳細な情報を得ることによって、当該酵素の新たな反応機構の提案も行った。一方で、深海由来のセルロース分解酵素の異宿主発現による安定な酵素生産には成功していないため、引き続き異宿主発現の検討に取り組むことで、研究計画を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新規性の高い深海由来のセルロース分解菌について、それぞれ特徴の異なる3種類の菌のゲノムデータの取得及び電子顕微鏡観察を完了した。これらの菌による差異や共通点等を今後関連付けて精査するとともに、セルロース分解時の主要な酵素について区別するためにRNAシーケンスのデータ取得を進める。新たに課題となった電子顕微鏡サンプルの調整方法の改善を引き続き行い、また、ベクターや宿主、発現条件などの検討を行うことで、新規セルラーゼに見いだされた機能未知ドメインの異宿主発現および酵素学的な機能解析を目指す。
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