研究課題
熱帯島嶼河川では,淡水域で生まれた幼生が海へ下り,数ヶ月かけ成長したのち,河口付近で着底して川を遡る両側回遊をおこなう動物が卓越し,高い種多様性を示す.この同生態系における種多様性の創出・維持には,島嶼河川に特徴的な頻繁な撹乱と両側回遊種の海洋幼生による河口への新規加入が繋がっている可能性がある.一方で,熱帯・亜熱帯域に生息する両側回遊性動物の種分類を含めた自然史に関する研究は少ない.本研究課題では,河川性アマオブネ科腹足類を対象に,その種多様性と各種の初期生態を含む生活史全体を把握するため,生態学・集団遺伝学・系統分類学的アプローチなどから研究を実施している.本年度は,これまでの分類学的結果に基づき,日本周辺およびミクロネシアなどを中心に各地域等における両側回遊性アマオブネ類の種多様性の把握を進めた.これまでの知見に新たに採集した標本情報を加えた結果,インド・西太平洋各地域で初記録となる種を含め,各島嶼域における種数および各種の地理的分布などの情報が集積できた.日本周辺域については,各島・河川・流程における種数を検討した.また,インド・西太平洋域のアマオブネ類各種について,ミトコンドリア遺伝子マーカーによる系統地理学的解析を進め,種内個体間の遺伝的距離を把握した.その結果,種によっては約1万キロ以上離れた地点間でも遺伝子型の共有が見いだされ,各種の分散能力が高いことが推定された.また,幼生殻・蓋を用いた発生様式推定により,全邦産種を含むほとんどの種はプランクトン食型の長期浮遊幼生をもつことが分かった.幼生飼育により,各種幼生の至適塩濃度や食性に関する情報を集積した.また,野外採集により,着底稚貝や浮遊幼生に関する生態データを蓄積した.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,河川性アマオブネ科腹足類を対象とした自然史情報の蓄積により,熱帯・亜熱帯島嶼河川の種多様性維持・成立プロセスを理解することを目的としている.前年度に引き続き,計画通り,生態学・集団遺伝学・分類学的手法等により,各地域での種多様性および各種の遡上や幼生生態に関する基礎情報を蓄積した.日本および過去の基礎知見が少ないミクロネシアなど熱帯地域の各河川における種構成について,採集標本を用いた網羅的な分類学的再検討により,その種多様性を把握することができた.各種の系統地理学的解析により,分散能力の高さが推定された.また,幼生飼育や野外調査により,各種の初期生活史に関する生態データを得ることができた.以上の理由から,全体的におおむね順調に進展していると考える.
引き続き,計画通りに研究を遂行する.インド・西太平洋各地域の種多様性把握のため,国内外における採集と博物館調査をおこない,遺伝・形態情報に基づく種分類の再検討を進める.各河川における生態調査を継続し,これまでの結果と比較する.また,分布の広い複数種について,DNAマーカーを用いた遺伝的集団解析をおこない,各種の幼生分散能力をより詳細に推定する.系統解析・化石記録調査により,アマオブネ類の進化史について検討する.最終的にこれまでの結果をまとめ,河川における種多様性・集団構造および幼生生態が,河川性アマオブネ類の同所的種多様性の維持に与える影響を考察する.また,結果を統合的に比較し,熱帯島嶼河川で卓越する両側回遊性貝類の種多様性の起源を検討する.各種の地理的・生態的分布と遺伝的集団構造,幼生分散,過去の海流・水温・地史とを対比し,熱帯島嶼河川生態系の成立過程を検証するための一事例として考察する.得られた結果は,研究成果として国際誌等で発表する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
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