研究課題/領域番号 |
18J01966
|
研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
宮川 弥生 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | W/O/Wエマルション / 冷凍 / 分散安定性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,水溶性の機能性食品成分を,Water-in-Oil-in-Water(W/O/W)エマルションの内水相に封入し,それを低温に保存することで,より長期の流通を可能にするとともに,途中で分解または失活させることなく,機能を保持したまま小腸まで送達するシステムの開発を指向し,その製造の指針の提示を目指すことである.平成30年度(昨年度)は,冷凍および解凍操作がW/O/Wエマルションの安定性に及ぼす影響を検討し,安定なW/O/Wエマルションを調製するための因子を明らかにした.令和元年度(本年度)は,これらの結果をまとめ,国内の学会にて発表するとともに,学術論文として投稿し,受理され報告した.さらに,本年度は,機能性食品成分のモデル物質としてベタニン(水溶性の食用天然赤色色素)を選択し,バルク系における退色反応速度に関する基礎的データを収集し,解析した.このベタニンは,実験系で汎用される色素であり,その化学的特性は明らかである一方,退色反応速度や反応機構に関する知見は十分でない.そこで,本実験により,熱およびpHが退色反応速度に及ぼす影響を明らかにした.また,退色反応に対する熱力学パラメータを算出し,退色反応機構とpHの関係についても考察した.これらの結果から,所期のエマルションの流通を実現するためには,内水相に封入する物質のpHに対する安定性を把握することが重要であることを明らかとした.そこで次年度は,本年度解析したバルク系におけるベタニンの退色挙動を,W/O/Wエマルションを模した系に応用し,これらを比較検討することとした.すでに,このような検討に適した,W/O/Wエマルションを模した系の構築に着手・検討を開始している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,機能性食品成分を,W/O/Wエマルションの内水相に封入し,低温流通および小腸までの送達を可能とするシステムの開発を指向し,熱およびpHがW/O/Wエマルションおよび封入された機能性食品成分の安定性に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている.平成30年度は,冷凍および解凍操作に対して安定なW/O/Wエマルションを調製するための指針を示した. W/O/Wエマルションでは,内水相の水分子が外水相へと移動し(油相透過),封入される機能性食品成分の安定性に影響を及ぼすと考えらえる.令和元年度および令和二年度は,W/O/Wエマルション系における機能性食品成分の温度およびpHに対する安定性を検討し,油相透過が機能性食品成分の安定性に及ぼす影響を考察する.令和元年度は,まず,機能性成分のモデル物質としてベタニンを選択し,バルク系における種々の温度およびpHに対する安定性に関する基礎データの収集および解析を行った.この結果,ベタニンの退色反応速度はpHに依存して変化することを示した.また,ベタニンの退色反応に対する熱力学パラメータおよびパラメータとpHの関係を明確にした.さらに,このバルク系における退色挙動と,W/O/Wエマルション系に応用した際の挙動を比較することにより,油相透過が機能性食品成分の安定性に及ぼす影響を明らかにできることが期待される.そこで,令和二年度は,W/O/Wエマルションを模した系におけるベタニンの安定性を評価し,その結果を本年度の結果と比較し,封入された機能性食品成分の安定性を維持する方法の提示を目指すこととし,これらの比較のための実験系の構築にも着手している.採用初年度において実験計画を一部変更したが,その後,このように実験計画に沿って研究が進んでいることから,おおむね順調に研究が進展していると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
令和二年度は,W/O/Wエマルションを模した系において,ベタニンの退色挙動を明らかにすることを目的とする.まず,W/O/Wエマルションの,内水相-油相-水相からなる三層の構造を模倣し,かつベタニンの退色反応の観察に適した系を構築する.それとともに,当該実験系において,ベタニンの退色過程を定量化する分析方法を検討する.実験系の構築後,本年度と同様のpHおよび温度条件におけるベタニンの退色挙動に関する基礎データを収集し,退色反応に対する熱力学パラメータを算出することで,各パラメータとpHとの関係を明らかにする.このような実験系の構築が困難であると判断した場合には,W/O/Wエマルションの三層構造をさらに単純化した系の構築,あるいは,W/O/Wエマルション系において安定性を評価する方法を模索する予定である.また,令和元年度は,主にベタニンに由来する色調の変化(吸光度)に着目したが,今後,研究を進める中において,退色反応機構に関するより詳細な情報が必要と思われた場合には,ベタニンの分解物の特定や,その分解物に関するより詳細な分析も追加して行う. これらの検討により得られた結果を,令和元年度に検討したバルク系における退色挙動と比較することで,油相透過が,ベタニンの退色反応に及ぼす影響を評価する.この結果に基づき,W/O/Wエマルションに封入した機能性食品成分の安定性を維持する方法について考察する.平成30年度からの結果と合わせ,所期のW/O/Wエマルションを製造するための指針を提示し,本研究の完成を目指す.
|