研究課題/領域番号 |
18J01993
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
小林 優介 国立遺伝学研究所, 細胞遺伝研究系, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / ミドリゾウリムシ / ミドリアメーバ / 共生藻 |
研究実績の概要 |
葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生によって誕生し、その後、真核藻類が複数回独立に非光合成真核細胞内に絶対共生すること(二次共生)、サンゴ等の動物細胞内に任意共生することで、光合成能は多数の真核生物系統にもたらされた。宿主は葉緑体の成長のためにリンや窒素化合物(肥料)を安定的に獲得・供給するという、「農業」を細胞内で行っており、一方、共生体は宿主の遺伝子発現や代謝を制御することで農業環境を最適化していると考えられるが、その具体的な仕組みは明らかでない。この謎に迫るには、共生状態と非共生状態の宿主細胞を比較することが必須であるが、藻類や植物において葉緑体を除去したり、共生を誘導したりすることは難しい。そこで研究代表者は、共生藻の除去と共生の誘導技術が確立されたミドリゾウリムシやミドリアメーバなどに注目している。初年度は、ミドリゾウリムシと単細胞藻の任意共生関係において、(1)共生藻に光合成を行わせるために宿主ゾウリムシはどの様にして肥料となる窒素源を与えているのか、(2)その窒素源を受け取るために共生藻はどの様な進化を遂げたのかという2つの問題設定をし、その解明のための研究を開始した。無機物及び代謝物のやり取りを解析するために、これまで原生動物学者らが用いてきた有機物を多量に含む培地における培養では無く、無機培地におけるミドリゾウリムシ培養系を確立した。さらに、無機培地及びそこに各種アミノ酸を加えた培地における培養により、宿主であるゾウリムシは共生藻に対して無機窒素源(アンモニウム、硝酸)ではなく、おそらくアミノ酸を供給していること、共生藻に供給するアミノ酸は株ごとに異なることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光条件等を最適化することで、完全無機塩培地においてミドリゾウリムシを培養する系を確立することができ、今後の解析への基盤が整備できた。並行してミドリアメーバ(マヨレラ)に関する解析も行い、こちらにおいてもミドリゾウリムシの共生藻と同様に、共生藻は独立生活を行う近縁の藻類に比べて、無機窒素源を同化する能力が顕著に低い一方で、外界からアミノ酸を取り込み効率よく増殖に利用できることが明らかとなった。両者の共生藻のゲノム解読を進めており、ミドリゾウリムシだけではなく光合成を基盤とした任意共生関係において一般化出来る可能性の高い重要な知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
各種アミノ酸添加時のミドリゾウリムシ共生藻の増殖速度の比較実験を行ったところ、共生藻が利用するアミノ酸の種類に地域差があること、それぞれのミドリゾウリムシ宿主と共生藻を交差すると不和合を起こし宿主が死滅することを発見した。さらに、ある種のアミノ酸は共生藻の増殖を抑制する可能性が見えてきた。これらの知見を統合すると、宿主は代謝物を介して共生藻の増殖を制御していると考えられる。藻類の細胞周期は明暗周期と同調し、さらに共生藻の光合成活性はミドリゾウリムシ宿主の概日リズムを制御することから、光合成が起きる明期と起きない暗期では宿主及び共生藻の代謝がダイナミックに変動すると考えられる。そこで、12時間明暗周期条件で培養した細胞からRNAを抽出し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行った。今後、明暗周期に同調する遺伝子群を探索し、RNAi技術を用いた逆遺伝学的解析を行うことで、宿主-共生藻の協調的増殖機構の解明を目指す。
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