地球上の生命を育む光合成は、植物や藻類が持つ葉緑体で行われている。葉緑体は10億年以上前に真核細胞内に取り込まれたシアノバクテリアの様な原核生物を祖先にすると考えられている(一次共生)。さらに、葉緑体を持つ藻類が他の真核細胞内に共生することで、光合成能は多岐にわたる真核生物系統にもたらされ、生物多様性を生み出した(二次共生)。しかし、互恵的な細胞内共生関係を成立させるために宿主と共生藻がどのようなコストを支払うことが必要なのかほとんど明らかとなっていない。本研究では、従属栄養性単細胞生物群(宿主)と単細胞性緑藻群(細胞内共生体)間の任意共生関係において、(1)共生緑藻に光合成を行わせるために宿主となる生物群はどのようにして肥料となる窒素源を与えているのか、(2)その窒素源を受け取るために共生緑藻群はどの様な進化を遂げたのかという2つの問題設定をし、その解明のための研究を立ち上げた。前年度、ミドリゾウリムシを対象とし、宿主であるゾウリムシは共生クロレラに対して無機窒素源(アンモニウム、硝酸)ではなく、アミノ酸を供給すること、共生クロレラに供給するアミノ酸は株ごとに異なることを見出した。これに関連して、近縁の独立栄養性のクロレラが数コピーしか持たない細胞膜型アミノ酸トランスポーター遺伝子が、共生クロレラにおいては十数コピー以上まで増大し、また多様化していることを明らかにした。今年度は本現象の一般性を調べるために単細胞緑藻群を細胞内に任意共生させるアメーバ2株を用いて研究を進めた。それぞれのアメーバに共生している緑藻2株の単離培養系を確立し解析を行ったところ、ミドリゾウリムシにおける共生体群と同様に、アミノ酸を細胞外より吸収し窒素源として高効率で利用できるように進化していることが明らかとなった。さらに、これらの共生緑藻2株のゲノムシーケンスの生データを得ることに成功した。
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