研究課題
木星放射線帯変動メカニズムの一つとして、熱圏の風速場が磁力線を介して放射線帯に影響を及ぼしている、というシナリオが提唱されている。サブミリ波干渉計ALMAを用いた上層大気観測を行いシナリオを検証することが本研究の課題の一つである。本年度は観測提案が採択されなかったため、ALMAの公開データの解析を進め、解析ソフトウェアCASAを用いた解析方法を習得した。解析したデータは空間分解能やS/Nが不十分ではあるものの、実際に上層大気の風速場を導出することができた。結果については現在考察中であるが、データ解析の流れを一通り追うことができ、次年度以降データが取得されてからスムーズに解析を進めることができる。また、木星磁気圏の朝夕電場や極域のオーロラ活動が放射線帯に与える影響を調べるため、ひさき衛星のデータ解析を進めた。ひさき衛星は木星の紫外線オーロラ及びイオトーラスを連続観測している衛星である。2016年10月以降に姿勢制御用のガイドカメラが故障したため、これ以降のデータを解析するには視野内での天体の動きを補正する必要がある。本年度は木星の位置ずれを補正する手順を確立し、オーロラ・イオトーラスの時系列データを作成することができた。さらに、2014年・2016年に行ったひさきとインドの電波干渉計GMRTの同時観測データを用いて朝夕電場が放射線帯に与える影響を調べた。その結果、放射線帯の朝夕非対称と朝夕電場には対応が見られず、他に主要な物理プロセスが存在していることが示唆された。しかしながら、朝夕電場の影響を完全に否定するものではなく、今後も追観測が必要であること結論付けられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度はALMAのプロポーザルが採択されなかったが、公開データを用いた研究を進め、データ解析手法を習得することができた。また、次回のプロポーザルに向けた課題も抽出することができた。ひさき衛星を用いたデータ解析に関しては、解析の手法を確立することができ、朝夕電場が放射線帯に与える影響について論文にまとめることができた。以上のことから、およそ期待通りの成果があったと判断される。
まず、次年度に向けてALMAプロポーザルの準備を行う。木星大気の放射伝達モデルを用いて、ALMAの観測を模擬したシミュレーションを行い、観測計画が妥当であることを示す。さらに、過去に観測されたデータの解析を進め、解析手法を習得するとともに定常状態でどの程度の風速変動が生じているかを調べる。この結果から風速擾乱の大きさを推定し、放射線帯における拡散係数と比較することでシナリオを検証する。さらに、インドの電波干渉計(GMRT)のデータを解析し、木星放射線帯の時空間変動を調べる。Juno探査機との同時観測が成功しているため、放射線データだけでなく、プラズマ波動・高エネルギー粒子観測データとも比較し、電波強度・空間分布との対応を調べる。Junoの各装置の担当者とコンタクトをとり、研究を進める予定である。紫外線望遠鏡ひさきを使用し、木星オーロラによる極域加熱が中低緯度の熱圏や放射線帯に与える影響についても引き続き調べる。昨年度新たに考案したデータ解析方法をこれまでの全データに適応し解析を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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