研究課題
太古の火星は海や湖などの液体表層水を保持していたが、時代とともに水を失い現在の乾燥寒冷な表層環境へと変化した。近年の調査により、火星の地表付近には現在も有機物が存在する可能性が指摘されている。しかし、その起源や保存メカニズム、火星の生命環境史との関係などは解明されていない。本研究の目的は、太古の火星環境を火星由来の岩石試料(火星隕石)の地球化学記録から解明することである。40億年前の火星隕石 ALH84001は、当時の火星の水から沈殿した炭酸塩鉱物の微小粒を含み、太古の火星環境を紐解く鍵となる。先行研究で、この炭酸塩粒に保持された有機炭素の存在が指摘されてきたが、主に技術的なハードルから、他の軽元素の挙動は十分に調べられていなかった。一方、窒素(N)は地球型惑星の大気-水-岩石圏 (および生命圏) のトレーサーとして重要な元素である。そこで本研究では、この炭酸塩にごく僅かに含まれた窒素の化学形態に着目し、微小試料の低汚染準備法を開発し、さらに大型放射光施設SPring-8軟X線ビームラインによる局所X線吸収端近傍構造分析(XANES)を利用することで、火星の窒素の局所非破壊分析を実現した。その結果、ALH 84001の炭酸塩が有機窒素を含み、硝酸等の無機窒素は検出限界以下であることが明らかとなった。有機窒素は、40億年前の火星に隕石などの形で外部から供給されたか、火星上でのアンモニアを介する有機化学反応で生成された後、水-岩石反応による炭酸塩の形成に取り込まれて長期間保存されたと考えられる。本研究結果は、40億年前の火星表層が現在より還元的で、窒素を含む有機化学反応が進行する初期地球に近い環境であった可能性を示唆する。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nature Communications
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