研究課題/領域番号 |
18J02091
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
白鳥 峻志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 真核生物 / 原生生物 / 分子系統解析 / 微細構造 / 進化 |
研究実績の概要 |
真核生物の新規系統の探索のために様々な環境からサンプリングを行い、培養株の確立と環境DNA解析を行った。今年度は合計28株の培養株を確立し、予備的な形態観察及び分子系統解析を行ったところ、その中の2株(SRT804株、SRT828株)が新奇原生生物であることが示唆された。今後これらの培養株について詳細な形態観察と分子系統解析を行う予定である。原生生物の新規系統を環境中から探索するために、環境サンプルからDNAを抽出し、PCRによって18S-28S rRNA遺伝子領域のオペロンを増幅し、PacbioRSIIおよびMinIONを用いて全長(約5,000-6,000 bp)のシーケンスを取得した。海洋研究開発機構前で採集した海水からは、既知の配列との相同性が非常に低い配列が複数得られた。分子系統解析を行ったところ、これらの配列は真核生物のどの系統にも属さない新規系統であることが示唆された。 過去の研究から真核生物のどの系統にも属さないことが示唆されている培養株(SRT610株、SRT706株)について、微細構造を明らかにするために透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、基本的な微細構造(細胞表面、ミトコンドリアや他の細胞小器官、射出装置)を明らかにした。TEM観察からは、SRT610株の細胞内には他の真核生物には見られない複雑な微小管複合体が存在していることも明らかとなった。今後集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)やTEMを用いた電子線トモグラフィー等によって、SRT610株の微小管複合体の構造を明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、環境中から新奇原生生物と思われる培養株の確立と、環境DNA解析を行うことができたため。確立した28株の培養株について、形態及び分子による同定を行ったところ、少なくとも2株は真核生物全体の多様性や初期進化を理解する上でも重要な新規原生生物である可能性が強く示唆されている。また、環境DNA解析からは新規系統と思われる配列の検出に成功しており、今後の研究でその実態が明らかになると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度実施した環境DNA解析から得られた知見をもとに、引き続き海洋または湖沼から水や堆積物等の環境サンプルから真核生物の全体像を明らかにするのに特に重要であると考えられる系統に属する原生生物を環境中から探索し、培養株を確立する。探索にあたっては、環境DNA解析から推定された生息域などを参考にサンプリング地点を決定する。目的の系統に特異的なプライマーを用いたPCR法やFISH法による検出も併せて行い、サンプル中に対象の系統に属する原生生物が存在しているのかどうかや、細胞の大きさ等を把握し、培養株作成に役立てる。培養株は目視で原生生物を拾い上げるマイクロピペット法またはセルソーターによる単離、または希釈法によって確立する。確立した培養株については順次18S rRNA遺伝子配列を用いた分子系統解析による選別を行う。選別した培養株は光学顕微鏡観察によって同定し、必要に応じて新種記載論文を準備する。選別した培養株について、微細構造観察と複数遺伝子による分子系統解析を平行して行う。電子顕微鏡試料を作成し走査型及び透過型電子顕微鏡観察を行うことで微細構造を把握する。電子顕微鏡試料を作成する際は、様々な固定方法(化学固定、凍結固定等)を試し、最も微細構造が保存された試料を使用する。鞭毛装置の立体構築のためにエポキシ樹脂に包埋した細胞の連続切片を作成し、透過型電子顕微鏡で観察する。培養株の系統的位置を明らかにするためにトランスクリプトームデータを取得し、100~200遺伝子ほどのデータセットを用いた大規模分子系統解析を行い、系統的位置を推定する。微細構造の把握と系統的位置の推定が出来た培養株については、得られた情報を元に進化の過程について考察する。
|