研究実績の概要 |
本研究課題の主目的であるコロイド粒子のダイナミクス評価において、必須の評価法である動的光散乱法(DLS)を駆使することが重要であり、当該年度ではその評価法の確立を行なった。用いたコロイド粒子は、水で膨潤し、やわらかい高分子ゲルからなるハイドロゲル微粒子を採用した。このようなソフトコロイドは、希薄濃度においては通常のコロイド粒子と同様に水中でブラウン運動しているが、濃度を増加させていくと、系内で互いに圧縮されることで変形し、相互貫入することでソフトコロイドガラスと呼ばれるペースト状になる。本研究では、ゲル微粒子の濃度変化に対するダイナミクス変化をDLSにより評価し、その解析手法の確立を行なった。 ゲル微粒子は、高濃度時に多重散乱を抑制できるほどの微小サイズのPoly(N-isopropyl acrylamide)からなるゲル微粒子を選択した。解析において、得られる自己相関関数(g2(τ) - 1, 以下ICF)をどのように解釈するかが重要であり、各濃度において特徴的なICFを得た。希薄濃度では従来通りゲル微粒子の並進拡散を観測したが、濃度を増加させると2つの緩和が観測された。一つ目の緩和は、ゲル微粒子自身の拡散が周りの微粒子により阻害されるジャミング化を反映している。もう一つの緩和は、ゲル微粒子内部の高分子網目の協同拡散であると考えられ、拡散係数の転移が観測できた。このダイナミクスの存在はこれまでほとんど議論されておらず、硬質微粒子のガラス化挙動では観測されない特徴的なものである。 本実験から、ゲル微粒子懸濁液のダイナミクスはコロイドとゲルの特徴を示し、化粧品や増粘剤等の製品としてだけでなく、光散乱法を駆使したソフトマター物理化学の理解のための有用なモデル材料であることがわかり、DLSによる新たな評価法を確立できたと考えている。
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