研究課題/領域番号 |
18J02175
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
服部 達哉 自治医科大学, 医学部生理学講座神経脳生理学部門, 特別研究員(SPD) (60772267)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 親和行動 / 行動選択 |
研究実績の概要 |
ヒトを含めた動物社会において、他個体との社会的な結びつきは必要不可欠である。社会行動の中で仲間(同性)間の親和行動に関する研究は少なく、その神経基盤の解析は進んでいない。本研究では、同性へ親和行動を示すか、警戒・敵対行動を示すかという行動選択メカニズムの解明を試みる。本年度は、異なる社会的立場の2個体を同時に提示し、どのような行動を示すのか、その行動が親和的か、警戒・敵対的かを明らかにすることを課題とした。 (1)若齢ラットの接近対象は日中の時間帯によって異なる 3週齢雄ラットを群飼育し、4週齢から行動観察を行った。同じケージ内の個体を「群内個体」とし、異なるケージの個体を「群外個体」として、雄ラットへ同時に提示し、それぞれへの接近行動時間を解析した。12時間明暗周期の明期切り替わり直後では、雄ラットは群内個体へ接近行動を示した。その一方で、明期開始6時間後では、群外個体へ接近行動を示した。5週齢雄ラットへの同様の実験でもまた、明期直後では群内個体へ、明期6時間後では群外個体へ、接近行動を示した。これらは、4週齢あるいは5週齢の若齢期雄ラットは日中の時間帯により接近嗜好性を示す対象が異なることを示している。 (2)接近対象の切り替えは幼若期特有である 幼若期に観察された接近対象の切り替えが、成熟期でも観察されるかを明らかにするために、9週齢雄ラットを群飼育し、10週齢から接近行動解析を実施した。その結果、明期直後、明期開始6時間後のいずれの時間帯も群外個体へ接近行動を示した。この結果から、先行研究での報告と同じように、本研究での行動実験系においても成熟個体では新奇個体が接近対象となることが明らかになり、接近対象が時間帯によって切り替わる現象は若齢期ラット特有であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体が異なる行動を示すためには、それぞれ異なる刺激を別々に情報処理する経路が存在する場合、あるいは刺激の情報処理経路のどこかに情報の分岐点が存在する場合が予想される。本研究では、同性他個体へ親和行動を示すか、警戒・敵対行動を示すかという行動選択に関わる神経回路の同定を試みる。しかし、この行動選択が並行する複数の処理系の中の1つが活性化するためか、この情報処理系のもつ分岐点による情報伝達先の切り替えによるものかを見出す手段がない。本研究ではラットを用いる。ラットは、同性間の代表的な親和行動である社会的遊び行動を示し、自身の情動状態を異なる周波数帯での超音波発声で示す。そのため、ラットの超音波発声を測定することで、その情動状態の推定が可能である。そこで、本年度は、他個体への行動を研究者が実験的に制御できる実験パラダイムと超音波発声記録を組み合わせた行動実験系の確立を最優先課題として行った。現在、同一刺激に対し、ラットの状況を変化させることで行動を選択させ、その時の情動変化を捉えることに成功しつつある。この実験系は再現性が高く今後その神経機構を検討していくのに有利な実験系と思われることから、本研究課題の進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立した実験パラダイムを用いて、接近行動時の神経活動を内側扁桃体と内側視索前野を含む視床下部とを中心に検討し、行動選択時の神経回路の同定と神経活動のリアルタイムな観察のための準備を到達目標とする予定である。 (1)行動時の神経活動の調査 雄ラットの状況を変化させ、神経活動マーカーであるc-Fos蛋白質の発現解析から接近行動を選択した場合の神経活動を同定する。親和行動はオキシトシンにより促進され、内側扁桃体にはオキシトシン受容体が存在する。そこで、オキシトシン系に着目し、その神経活動の観察を試みる。受け入れ研究室のオキシトシンプロモータ制御下で赤色蛍光タンパク質tdTomatoとDNA組み換え酵素Flippaseを発現するOXT-tdTomato-2A-FLP Tgラットとオキシトシン受容体遺伝子座に蛍光タンパク質VenusとFlippaseを導入したOXTR-Venus-2A-FLP KIラットを用いる。まず、これらの遺伝子改変ラットで接近行動時の神経活動が再現できることを確認する。 (2)行動選択時の神経活動の経時的な観察 OXT-tdTomato-2A-FLP Tgラットを用いて、行動選択時のオキシトシンニューロンの活動を観察する。まず、視床下部オキシトシンニューロンに細胞内カルシウムセンサー蛋白質を発現させる。初年度に確立した実験パラダイムにより任意の行動を選択させ、この行動選択前後の神経活動をファイバーフォトメトリ法により経時的に観察する。また、OXTR-Venus-2A-FLP KIラットを用いて、同様の方法によりオキシトシン受容体発現ニューロンの活動を経時的に観察する。
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