研究課題
心疾患は我が国の死亡原因の第二位であり、欧米や世界では一番の死亡原因となっている。心疾患の中でも最も死亡数が多い心不全は発症のメカニズムに不明な点も多いため、心不全発症の新たな分子メカニズムを解明し、新規治療法を開発することが期待されている。最近、心不全の増悪への癌抑制因子p53の関与が示唆されつつある。心不全を発症するようなストレス負荷時にはp53が活性化し、細胞老化が誘導される。老化細胞にはSASPと呼ばれる特徴があり、炎症性サイトカインや増殖因子、マトリックスメタプロテアーゼなどの生理活性物質を分泌している。つまり、加齢や生活習慣に伴うストレスが心臓内の老化細胞を増加させ炎症反応の亢進を介して心不全を引き起こす、もしくは悪性化させていると考えられる。申請者はこれまでに、核内構造体である核小体がストレスの種類に応じて自身の大きさを変えることによりアポトーシスや細胞老化といった細胞の運命決定を行っていることを発見している。本研究では、心不全における核小体を介した細胞老化機構の解明と制御を目的としている。本年度は心不全モデルマウスを用いて核小体の機能と細胞老化を解析した結果、心臓組織内において核小体が肥大化した心臓線維芽細胞の老化細胞が観察された。さらに、ROS誘導剤や抗酸化剤を用いた実験から、心不全ストレス時にはROSが増加しrRNAの転写を亢進させることによって核小体の肥大化・細胞老化を誘導することも明らかにした。加えて、ボイデンチャンバーを用いた共培養実験から、老化した心臓線維芽細胞は心筋細胞の肥大化を誘導することも明らかとなった。また、核小体機能を制御することで老化細胞を特異的に細胞死させる化合物を作る試みでは、老化した心臓線維芽細胞特異的に細胞死を誘導できることを確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では大きく分けて以下の2項目の研究を進めてきた。1.心不全における核小体を介した細胞老化誘導機構の意義2.核小体機能の人為的制御と心不全治療への応用その中でも本年度の計画としては①-a) ROS誘導剤添加時の心臓線維芽細胞における細胞老化や核小体機能の解析、①-b) NACによるROS抑制時の心臓線維芽細胞における細胞老化や核小体機能の解析、①-c) 老化心臓線維芽細胞による心筋細胞へのパラクライン的肥大作用の解析、②-a) 心筋細胞と心臓線維芽細胞を用いた化合物のスクリーニング、②-b) 心不全モデルマウス心臓の老化細胞、核小体への化合物の効果検討を進める予定だったが、実際にはそれに加えて①-d) NAC投与時の心不全モデルマウスにおける細胞老化や核小体機能の解析、①-f) NAC投与時の心不全モデルマウスにおけるrRNA転写と心機能の解析まで着手することができた。
前倒しで進めていた①-d) NAC投与時の心不全モデルマウスにおける細胞老化や核小体機能、rRNA転写と心機能の解析についても引き続き研究を進めるほかにⅰ-心不全患者の心臓における老化細胞と核小体機能の解析)SA-beta-galやp16、核小体因子の免疫染色、p16のウェスタンブロットを行い、心不全患者の心臓における老化細胞の蓄積、核小体サイズを解析する。また、心不全患者の心筋生検サンプルを用いてrRNA転写とプロセシングの状態を評価する。8-OHdGの免疫染色によりROSの活性も検討する。心臓機能や予後などのデータと、核小体機能や細胞老化との相関関係についても解析を行う。ⅱ-心不全モデルマウス心臓の老化細胞、核小体及び心機能への化合物の効果)スクリーニングによって得られた化合物を用いて、心不全モデルマウスの心臓における老化細胞のアポトーシスと核小体サイズについて検討する。さらに、その時の心臓におけるrRNA転写とプロセシングの状態をpre-rRNAのリアルタイムPCRとノーザンブロットによって評価する。心エコーやANP、BNPの発現量の定量を行い心機能及び予後を検討する
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 8(1) ページ: 12731
10.1038/s41598-018-31034-z.
http://www.naramed-u.ac.jp/~1int/