研究実績の概要 |
被子植物の重複受精は、次世代の植物体となる受精卵(のちの胚)と、発生中の胚と発芽時の幼植物体に栄養分を供給する初期胚乳細胞(のちの胚乳)を生む。これら胚と胚乳は, 母体からの積極的な栄養供給を受けることで種子形成を完遂するが、この種子形成に伴い、母体植物は成長維持から次世代支援への生活環の移行、つまり老化を起こす。これまで、この種子形成の開始(開花に伴う受精)と老化の連動は古くからその関連が指摘されてきたが、葉組織における生理・遺伝学的な老化メカニズムの解析が進む一方で、未だその種子形成の開始と母体植物の生活環の変化を介在する分子メカニズムの正体は明らかにされていない。そこで、報告者はこの詳細を明らかにするため、人工気象機による一定環境下で栽培されたイネを用いて、受精の有無と母体植物の生活環移行との関連性を調査する。 採用第1年度目では、イネの老化様式を理解するために、人工気象機内で栽培したイネの形質と老化の進行度として開花後の葉の葉緑素量を計測した。さらに同様の測定を、花序を半分数除去する、花序を全て除去するなど、外因的に受精条件を変更したイネ個体に対しても実施した。採用第2年度目では、それら計測した項目値間における相関係数を算出し、人工気象機内で栽培されたイネにおける老化進行の体系化を行うことで、受精の有無と老化進行を評価する受精-老化評価系を確立した。この評価系を用いて、外因的な受精条件の変化が及ぼす母体植物体の黄化進行への影響を解析したところ、花序の切除数に応じて葉の黄化開始日・黄化速度が変動することが示され、それらが受精の有無による影響を受けることが示唆された。採用第3年度目では、母体植物体の生活環の変化と受精を介在する因子を特定するために、受精卵において起こる変化のうち、受精に伴い発現する受精卵遺伝子群に着目し、その発現メカニズムの解析を進めた。
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