研究課題/領域番号 |
18J10039
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
酒井 博之 創価大学, 工学研究科環境共生工学専攻, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | ARMAN / Micrarchaeota / 好熱菌 / 好酸性菌 / アーキア / 極小微生物 / 共生微生物 / 酸性温泉 |
研究実績の概要 |
研究初年度である平成30年度は、未培養アーキア系統群"ARMAN(Archaeal Richmond Mine Acidophilic Nanoorganism)"に属すアーキア(ARM-1株)について、その生理学的性状を明らかにする事を目的として、以下の5つの実験を実施した。 (1)最適継代培養条件の検討、(2)宿主AS-7株の生理学的性状の解析、(3)宿主AS-7株との共培養下におけるARM-1株の生理学的性状の解析、(4)AS-7株およびARM-1株の形態観察、(5)AS-7株およびARM-1株の全ゲノム配列の決定。 (1)については、これまで「増殖速度が非常に遅く」「培養は困難である」と言われてきたARMANについて、比較的速い増殖速度かつ高い細胞密度を保ったまま継代培養するための培養条件を確立した(最大細胞密度:約10^9 cells/mL)。(2)については、宿主AS-7株の生育温度範囲、生育pH範囲、炭素源利用性について明らかにした。(3)については、宿主AS-7株との共培養下におけるARM-1株の生育温度範囲、生育pH範囲、複合基質利用性、糖利用性、独立栄養性を、定量PCR法を用いて明らかにした。加えて、宿主の非存在下ではARM-1株は増殖しない事を明らかにし、本株が共生性アーキアである実験的な証拠を得た。(4)については、AS-7株は直径約1μmの球菌であり、ARM-1株は直径100~300 nm の極小サイズの球菌であることを明らかにした。(5)については、AS-7株およびARM-1株の共培養液から抽出した混合DNAをPacBio RSIIシークエンサーに供して両株の全ゲノム配列を決定することに成功した。現在、これらの研究成果をまとめた論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ARMANに属すアーキアは「増殖速度が非常に遅く」「培養は困難である」と考えられてきた。いっぽう本研究では、様々な継代培養条件を検討する中で、非常に高い細胞密度を保ちながらARMAN(ARM-1株)を安定して継代培養する為の培養条件を確立した。この培養条件を確立したことで、ARMANに属すアーキア(ARM-1株)について、初めて培養性状(生育温度・pH範囲、複合基質・糖の利用性、独立栄養性)を詳細に明らかにし、共生性アーキアである実験的証拠を得ることができた。加えて、高濃度のDNAを得る事ができたため、一度の解析で全ゲノム配列を決定する事もできた。平成30年度に予定していた比較ゲノム解析はまだ行う事ができていないものの、培養が困難であるARMANについて、ほぼ予定通り上記の研究成果が得られた事から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和元年度(平成31年度)は、以下の4項目に関する研究を実施する。 (1)ARM-1株の正式記載、(2)より高品質な遺伝子配列情報の取得、(3)ARM-1株の遺伝子発現解析、(4)系統の異なる極小および共生性アーキア(Nanoarchaeota 門)の培養性状の解析。 (1)については、記載の為に必要な解析項目について追加実験を行い(透過型電子顕微鏡観察、脂質骨格の解析など)、その性状を論文としてまとめて投稿する。これにより、アーキア界における新門の正式提唱を行う。(2)については、Illumina MiSeqシークエンサーを用いてショットガンシークエンスを行い、得られた配列データをPacBio RSIIシークエンサーの配列データに加える。これにより、シークエンスエラーの補正を行い、より高品質なゲノム配列情報を取得する。(3)については、ARM-1株の増殖が確認されたいくつかの培養条件下において、RNAseq法を用いた遺伝子発現解析を行う。これにより、極小アーキア-宿主間の共生メカニズムの一端を明らかにする事を目指す。(4)はこれまで予定していなかった解析項目であるが、ARMANと同様に細胞が極小で共生性のNanoarchaeota門アーキアについても培養性状を調査し、その特徴をARMANと比較する。これにより、ARMAN特有の性質がより明確になると同時に、極小アーキア-宿主間の共生メカニズムについて、より広範な知見が得られると考えている。
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