研究課題/領域番号 |
18J10116
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
高垣 菜式 甲南大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | C. elegans / 低温耐性 / キサンチンデヒドロゲナーゼ / メカノレセプター |
研究実績の概要 |
温度は、常に地球上に存在する重要な環境情報であり、動物の温度に対する応答や耐性機構の解明は重要な課題である。本申請者は、遺伝学的解析からC. elegansの低温耐性に関わる新規変異の原因遺伝子を同定した。原因遺伝子はXDHはプリン体代謝経路の下流で働き、ヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸への酸化を触媒する酵素であるキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH-1)であった。さらに、xdh-1変異体の低温耐性異常は、AINとAVJのわずか2つの介在ニューロンでxdh-1 遺伝子を発現させることで回復した。つまりわずか2つの介在ニューロンが低温耐性において、個体の生死を司るということがわかった。 AINとAVJは介在ニューロンであるため、上流に温度を感知する感覚ニューロンが存在することが考えられた。AINとAVJ介在ニューロンの上流に位置する感覚ニューロンの探索をおこなった結果、上流には9個の感覚ニューロンがあり、うちASG感覚ニューロンを含む5個のニューロンは機械刺激を受容するメカノレセプターが発現していた。そこでメカノレセプターに焦点を当て、様々なメカノレセプター遺伝子やメカノレセプターの開閉に関わる遺伝子の変異体を用いて低温耐性テストをおこなった。その結果、多くのメカノレセプターの変異体で低温耐性の異常が確認された。中でも顕著な異常を示したdeg-1に関してより詳細な解析をおこなったところ、DEG-1はAINとAVJ介在ニューロンの上流に存在するASG感覚ニューロンの温度受容に関与することがわかった。また、DEG-1を温度を受容しない味覚ニューロンASEに異所的発現させ、温度に対する応答をカルシウムイメージングによって解析した結果、DEG-1が発現しているASE味覚ニューロンが温度応答性を示すようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線虫C.elegansを用いて動物の温度耐性メカニズムの解明を目指し解析を行い、低温耐性に関わる新規遺伝子キサンチンデヒドロゲナーゼを同定後、予想外にも機械受容体メカノレセプターが低温耐性に関与することがわかった。また異所的発現解析などからメカノレセプターが温度を受容している可能性を示す結果を得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
動物は目まぐるしく変動する環境温度を感知し応答することで生存・繁栄している。本申請者は、C. elegansの低温耐性に関わる新規変異を発見し、その原因遺伝子はキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH-1)であると同定した。さらにxdh-1遺伝子の低温耐性における機能細胞がAINとAVJ介在ニューロンであることを突き止めた。現在は神経間ネットワーク解析と変異体の表現型解析から「機械刺激を受容するメカノレセプターが個体の低温耐性を制御する」という予想外の結果が得られたため、特に異常の大きかったメカノレセプターDEG-1が機械刺激だけではなく、温度も受容するのかを電気生理学的に解析する。 具体的には、下記の通りである。
1. 細胞特異的な回復実験と遺伝学的解析を用いて、deg-1遺伝子の低温耐性における機能細胞を同定し、メカノレセプターを介した温度耐性の神経回路を同定する。 2. アフリカツメガエルのoocyteを用いた電気生理学的解析により、DEG-1が温度受容体であるのかを同定する。また、解析にはDEG-1のヒトホモログMDEGについても同様の解析をおこなう。
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