研究課題/領域番号 |
18J10121
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 悠 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / メダカ / ビテロジェニン / 遺伝子改変 / ソノポレーション / ルシフェラーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、従来の卵への顕微注入法に成りかわる新規遺伝子改変法の確立を目指している。新法では、雌成魚へ導入したゲノム編集ツールを、卵内輸送タンパク質・ビテロジェニン(Vtg)によって卵内へ輸送させ、産卵前の時点で卵(次世代)のゲノム編集を完了させることを想定している。本研究計画を完遂できれば、あらゆる魚種で従来法よりも簡便に遺伝子改変を達成することが期待される。これまでの研究により、メダカVtgのアミノ酸配列の中から、肝臓から血中への分泌、および卵内への輸送・蓄積を可能にするVtgシグナルの特定に成功している。それゆえ、新法の確立には、(ⅰ)ゲノム編集ツールおよびVtgシグナルの融合、さらに(ⅱ)成魚への高効率な核酸導入法の開発が必要となる。 (ⅰ)については、Vtgシグナルによって、発光タンパク質ルシフェラーゼ (Luc)を卵内輸送することには成功したものの、ゲノム編集ツールの卵内蓄積は確認できなかった。一方、(ⅱ)については、超音波を用いたソノポレーション法によって成魚筋肉における高効率な核酸導入に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(ⅰ)については、遺伝子導入メダカを作出することにより、VtgシグナルによってLucの卵内輸送が可能であることを明らかにした。次に、Vtgシグナルを利用した各ゲノム編集ツール(TALEN、およびCas9)の卵内輸送が可能かどうか、検証した。具体的にはVtgシグナルを含んだ各ベクター(肝臓特異的プロモーター: Vtgシグナル: 各ゲノム編集ツール)を新たに構築し、遺伝子導入メダカを作出した。続いて、各F1ヘテロ雌個体の肝臓および卵巣を摘出し、Cas9抗体およびFlag抗体を用いたウエスタンブロット法によって発現解析を行った。その結果、肝臓では各ゲノム編集ツールの発現を示すバンドが検出されたが、卵巣ではバンドが観察されず、本実験からは、ゲノム編集ツールの卵内蓄積を示唆する結果が得られなかった。 (ⅱ)については、低侵襲な核酸導入法であるソノポレーション法を用いて、成魚への核酸導入法の開発を試みてきた。本実験では、まず、筋肉発現用ベクター(筋肉特異的プロモーター: GFP)および肝臓発現用ベクター(肝臓特異的プロモーター: GFP)を作製し、導入後5日目の時点で、各組織における緑色蛍光の強度と範囲を基準に導入効率を評価した。両ベクターを成魚の各組織へ導入した結果、筋肉では明瞭かつ広範に緑色蛍光が観察された一方で、肝臓では顆粒状にわずかな蛍光が観察されたのみで、両者の導入効率には顕著な差が見られた。本結果から、輸送物質を発現させる組織は、筋肉が適していることが示唆された。 (ⅰ)は当初よりも遅れているが、(ⅱ)は順調に進行したため、総合的に考えて「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
以上の結果から、これまで使用してきたVtgシグナルによってゲノム編集ツールを卵内蓄積させるのは困難だと考えられる。そこで現在はVtgシグナルの長さを再検討し、卵内輸送効率の向上を図っている。本実験では、引き続き発光タンパク質ルシフェラーゼを利用し、卵内での蓄積量を正確かつ迅速に評価している。 このほか、成魚への核酸導入については、導入効率の向上を目指したプロモーターの再検討および、筋肉・肝臓以外の臓器(卵巣など)への導入にも取り組んでいる。また電気パルスを用いた核酸導入法であるエレクトロポレーション法など、他の核酸導入法の活用も視野に入れながら、導入効率の向上を目指し打開を図っている。
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