研究課題/領域番号 |
18J10140
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上野原 努 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | フォトニックナノジェット / レーザ微細加工 / 加工シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究は,フォトニックナノジェット(PNJ)とマイクロ球のレーザトラップ技術を融合したナノ3次元微細加工技術の確立を目的としている.ナノ3次元微細加工技術の要素技術として,[1]フォトニックナノジェットのフレキシブルな強度分布制御手法の確立,[2]トラップ状態を仮定した加工シミュレーションによる材料除去量の推定に関して,以下の知見を得た. [1]PNJの強度分布をフレキシブルかつ高分解能に制御するために,FDTD法を用いた光線追跡および電磁場シミュレーションによりPNJの発生メカニズムを調査した.特に,PNJの発生において重要な役割を担うマイクロ球の集光特性について検討した.まず光線追跡法により,マイクロ球の中心軸付近は集光力の低いレンズとして,一方でマイクロ球中心軸から離れた領域は集光力の高いレンズとして機能することが明らかとなった.この知見を基に,入射光の強度分布を制御することで,集光力の高いレンズと低いレンズの機能の割合を制御することが可能となり,PNJのビーム径が入射光波長の1.08倍から0.25倍の範囲でフレキシブルに制御可能であることをFDTDシミュレーションによって実証した. [2]マイクロ球をレーザトラップした状態での加工を想定し,PNJによる加工シミュレータを構築した.FDTD法をベースとしたシミュレーションにより材料に照射される光強度分布を求めた.これを材料固有の加工しきい値と比較することで,PNJによる除去領域が推定可能となった.本手法によって,単結晶シリコンウェハに対してPNJを照射した際の加工痕を推定したところ,サブミクロンスケールの加工幅かつ1ミクロン以上の加工深さを実現可能であることが明らかとなり,PNJの3次元微細加工への有効性を実証した.また,球の位置制御によって加工幅や加工深さがナノメートルスケールの分解能で制御可能であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,マイクロ球をレーザトラップした状態で発生させたPNJによる材料除去特性を明らかにするために,FDTD法をベースとした加工シミュレータを構築した.当初の計画では,レーザトラップしたマイクロ球の安定制御を目的としていたが,その安定制御および適切な位置制御のための知見を得るために,レーザトラップしたマイクロ球によって発生したPNJによる材料除去特性の理論的な検討を優先した.FDTD法をベースとした加工シミュレーションによって,PNJのピーク強度をとる位置(球表面から1ミクロン程度離れた位置)が材料表面位置と一致するようにマイクロ球を位置制御することで非常に効率がよく,かつナノメートルスケールの非常に高分解能な加工が可能になることが明らかとなった.また,そのピーク強度をとる位置からさらに1ミクロン程度マイクロ球を加工材料から遠ざけた際にも,ナノメートルスケールの加工幅およびマイクロメートルスケールの加工深さといったPNJの特徴をよく反映した加工形状が得られることもわかった.当初はPNJの強度分布のみを考慮して,マイクロ球と加工試料の間の距離が1ミクロン以下となるようにマイクロ球の位置を安定して制御する必要があると考えていたが,2ミクロン程度離れた状態でもPNJの特徴を活かした加工が可能であることが示された.この知見はマイクロ球をレーザトラップし,加工試料付近で安定して位置制御するために非常に重要である.当初の予定とは少し異なるが,マイクロ球の加工試料付近での位置制御における定量的な目標値を定められたことは,レーザトラップしたマイクロ球の安定制御において重要な位置づけであり,それを達成したことで本研究はおおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度までの研究成果として,FDTD法に基づいたシミュレーションによって,レーザトラップしたマイクロ球から発生するPNJを用いることでナノメートルスケールの加工幅およびマイクロメートルスケールの加工深さを実現可能であることを明らかにし,PNJがナノ3次元形状加工技術として有効であることを実証した.この知見をもとに平成31年度は,シミュレーションのみではなく,実験的にPNJがナノ3次元形状加工技術に有効であることを検討していく.加工実験を適切に行いかつ評価するために,まずマイクロ球の安定的な位置制御パラメータを実験的に検討する.その後,加工時の圧力変化にも対応可能なように,マイクロ球の位置制御系がフィードバック制御系となるようにシステムを設計および構築する.レーザトラップしたマイクロ球から発生するPNJを用いて加工実験を行い,その加工特性を評価する.
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