研究実績の概要 |
構造体を設計する上で、どのように構造体が自立するか判断する直感的な能力、すなわち、内在する力の流れや動きをイメージする能力が挙げられる。この能力は「力学的感性」と定義され(日本建築学会、2014)、研究が進められている。本研究では、認知科学的アプローチを用いて、力学的感性の多角的な解明を試みた。前年度に引き続き、人の教育背景および物体の重心位置が、人の視覚的な物理的安定性や物体の審美性の評価にどのように影響を与えるか調査を行った。異なる教育的背景を持つ参加者(工学学生、芸術学生、その他の学生)を募り、自立した物体に対する審美性および安定性の評価を行う実験課題を実施した。 実験結果から、審美性、安定性の評価において、どちらの評価も教育背景の違いが影響していることが分かった。審美性の評価で、人は安定しているように見える物体を好むことを示した。ただし、芸術学生は、不安定にみえる物体の美しさを強調する傾向があった。また、安定性の評価結果から、参加者は、重心位置の視覚情報に基づいて、物体の心理的安定性を線形推定していることが分かった。この推定は、教育背景や物体がもたらす幾何学的錯視の影響を受けていることが分かった。工学学生は、物体の不安定性をより厳しく評価する傾向があり、芸術学生はより柔軟な評価をしていることが分かった。これらの実験結果を学会で発表後、原著論文としてまとめ報告した(Okumura & Yamanaka, 2020 in press)。この実験結果に基づき、さらなる検討を行うべく追試を実施し、人の視覚的な物理的安定性や物体の審美性の評価がどのように影響を受けているのか調査を行った。結果をまとめ、原著論文として報告する予定である。
|