研究課題/領域番号 |
18J10171
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相馬 拓人 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化物エレクトロニクス / 遷移金属酸化物 / エピタキシャル成長 / 電気化学 / Liインターカレーション |
研究実績の概要 |
本研究の独自性である「エピタキシャル薄膜成長」と「化学反応」という技術を駆使し,様々な材料系に着目し遷移金属酸化物の新しい物性の開拓・制御を試みた.本年度は,主に以下の2つの材料系において新たな発見が得られた. (1)βパイロクロア型CsW2O6の金属-絶縁体転移機構の解明 CsW2O6という物質は単結晶合成が不可能であり詳細な物性解明が妨げられていた.この点に着目し,薄膜成長技術を駆使することにより単結晶薄膜合成を実現した.その結果,明瞭な金属-絶縁体転移が発現することが明らかとなった.更に,高エネルギー加速器研究機構の施設を利用した放射光光電子分光測定を駆使することにより,その機構はCs+カチオンのラットリング運動変化とW5.5+カチオンの電荷不均化が結びついている珍しい転移であることが明らかとなった.この結果はPhysical Review Materials誌に原著論文として掲載された. (2)層状Li1-xNbO2の薄膜合成とp型透明超伝導の発見 Li1-xNbO2という物質は超伝導の発現が1990年に報告されて以来,殆ど物性報告が無く薄膜合成などの例も存在しなかった.しかしながら物性物理的に興味深いエッセンスを数多く含むため,物性調査・開拓を目的として薄膜合成に取り組んだ.その結果,通常のPLD薄膜成長法では合成が困難なことが明らかとなり,様々な試行錯誤により本材料に特化した新規3段階合成法を開発した.本手法により超伝導エピタキシャル薄膜合成が初めて実現し,様々な物性を調査することが可能になった.特に,高い可視光透過率と超伝導状態が共存することが明らかとなり,初のp型透明超伝導体といえる特性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していたCsW2O6とLi1-xNbO2という二つの材料について一定の成果を得ることができた. CsW2O6では論文掲載まで達成することができた一方で,Li1-xNbO2のテーマでは想定外に高い透明性を示すことが明らかとなり,特に魅力的な物性を引き出すことに成功した.Li1-xNbO2のテーマが想像以上に広がったことにより新しい展開を含む様々な結果が得られつつあるが,引き換えとして取り組むことのできた材料系は他に数個に限定されてしまった.しかしながら当初の予定は達成しており,次年度に更なる展開が期待できる結果である.
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる次年度は,「(1)初年度に明らかになった層状材料系の発展」と「(2)新たな材料系の研究」を取り組む. (1)初年度は層状構造を持つ材料系に着目したが,層状Li1-xNbO2では透明性とp型超伝導性が共存することが明らかとなった.超伝導臨界磁場異方性測定や電気化学反応を活用し,Li1-xNbO2の二次元的な超伝導特性と完全な電子相図の解明を行う.また電気化学トランジスタを試作しその電子状態の任意制御を試み,超伝導をコントロールできるデバイスとしての動作まで検証する.一方で層状LiRhO2ではp型半導体特性を示すことが明らかとなった.溶液酸化反応・電気化学をはじめとしたソフト化学反応を試み,LiRhO2のホールドーピングと電気化学的制御を試みる. (2)さらに,本年度は新たな材料系にも取り組む.これまで未開拓だが本手法で解決が期待できる物質群は多いため電気特性・磁気特性・光学特性など多角的に物性に着目し新しい遷移金属酸化物材料の開拓を狙う.これまで蓄積してきた薄膜技術を駆使し,パルスレーザ堆積法でターゲット材料を単結晶薄膜として合成する.合成した薄膜に対しソフト化学反応や電気化学反応を行い物性の制御を試みる.特に,ポテンシオスタットを利用した定量的な電気化学反応を活用し,電子物性のキャリア濃度依存性の系統的な解明と制御を達成する.
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