研究課題/領域番号 |
18J10186
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
大山 奈津子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 腎臓 / pDNA / 遺伝子デリバリー / 組織押圧 / 組織吸引圧 / 輸尿管投与 / 腎動脈投与 |
研究実績の概要 |
物理刺激として組織押圧並びに吸引圧を用いた遺伝子導入法では、簡便性、低侵襲性、安全性の点で先行技術より優れている。臨床応用に向けては、投与量や全身への分布を最小限に抑える投与ルートの最適化が必要である。そこで本年度は、ラットでの局所投与ルートとして腎動脈投与・輸尿管投与を選択し、各投与ルートにおける最適投与条件を検討し、さらに遺伝子導入部位に関する評価をおこなった。 ラットに対してnaked pDNAの腎動脈内投与あるいは輸尿管投与の後に、シリンジデバイスを用いて一定の圧力刺激を施すことにより、左腎特異的な遺伝子導入をおこなった。 条件検討の結果、最適DNA投与量は【腎動脈投与:100μg, 輸尿管投与:100μg】、最適投与容量は【腎動脈投与:200μL, 輸尿管投与:100μL】、最適圧力は【腎動脈投与:1.2 N/cm2, 輸尿管投与:0.9 N/cm2】であることが明らかとした。 一方、組織透明化を利用した多色深部イメージングとして、これまでラット腎臓構造を染色した報告はなかった。そこで、他臓器への色素の分散を防ぐために、脂溶性蛍光色素を腎灌流することにより腎臓内構造の可視化を試みた。その結果、脂溶性蛍光色素DiIで、糸球体や尿細管周囲毛細血管、尿細管、集合管が染色されたものと考えられる。空間分布の結果は、腎動脈投与ルートでは、主に間質で発現が認められ、一部で糸球体・尿細管に導入される可能性が示された。一方、輸尿管投与ルートでは、皮質の尿細管・髄質の集合管で豊富な遺伝子発現が認められた。これらの結果は、X-gal染色の結果と一致した。 以上、ラットを用いた腎動脈・輸尿管投与ルートによる遺伝子導入法を確立し、ラットにおける多色深部イメージングの評価に成功し、圧力を利用した腎臓への遺伝子導入では投与経路の選択により、遺伝子導入部位を制御できる可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子治療薬の臨床投与の前段階として、投与量や全身への分布を最小限に抑える投与ルートの選択が必要となるが、未だ報告は少ない。今回、ラットにおいて腎動脈投与・輸尿管投与による圧力を利用した腎臓への遺伝子導入法を確立し、高効率な遺伝子導入条件を明らかにした。さらに、ラットにおいて脂溶性蛍光色素の腎灌流と組織透明化を組み合わせることで、新たに腎臓多色深部イメージングに成功させた。尚、マウスにおける組織透明化による多色深部イメージングの報告はいくつかあるが、ラットにおいては初の試みである。この腎臓多色深部イメージングにより、腎動脈投与では主に間質、一部で糸球体・尿細管に導入され、輸尿管投与ルートでは、皮質の尿細管・髄質の集合管導入されうることを明らかにした。圧力を利用した腎臓へのin vivo遺伝子導入では、投与経路の選択により、遺伝子導入部位を制御できる可能性が示され、これらの情報は、今後遺伝子治療や機能解析を進めていく上で重要な基礎的知見となる。以上のことを踏まえ、順調に研究を進展させたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、ラットを用いた局所投与ルートでの圧力を利用した腎臓への遺伝子導入法において、蛍光標識pDNA投与後の挙動を評価をおこなう予定である。また、最適条件下での腎障害性について、血清クレアチニン、血清尿素窒素、尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidaseの経時的評価をおこない、パラフィン切片のHE染色による組織学的評価を進めることで明らかにしたいと考えている。 さらに、病態モデルとして、虚血再灌流障害による急性腎障害から慢性腎臓病へ移行した腎線維症モデルマウスを用いて、腎臓吸引圧遺伝子導入後の遺伝子発現分布ならびにpCpG free hHGF単回投与後の治療効果について評価をおこなう予定である。評価手法としては、線維系バイオマーカー(TGFβ, αSMA, Collagen1α1)・腎障害バイオマーカー(NGAL ; Neutrophil Gelatinase-Associated Lipocalin)のmRNA・タンパクの定量、マッソントリクローム染色による組織学的評価、腎臓容積測定法により概算した片側腎臓容積減少率、腎重量減少率を用いる。
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