研究課題/領域番号 |
18J10189
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮島 和也 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 上古中国語 / 出土資料 / 地域的特徴 |
研究実績の概要 |
本研究は上古中国語のうち、主に戦国時代から秦代(前5~前3 世紀)における、ある語をどの文字で表記するかという文字表記(「用字法」)や関連する言語的問題を主要な対象とし、その地域的特徴の記述および形成過程・要因を明らかにすることを目的としている。本年度の主な研究実績は以下の通りである。 ①「用字法の地域的な差異」に対する文字論的観点からの再検討:楚と秦を対象に、いわゆる同源語など、意味・音声が密接に関連するものがどのように表記されているかを検討した。そして用字法の差異は単なる字と語の1対1の対応の違いに留まらず、音声言語をどのように分割・カテゴリー化し可視化するかという文字化の、各地域の文字体系における違いでもあることを指摘した。 ②地域的特徴の記述と分析:共時的な地域的特徴の記述を進め、その過程で見出された現象に考察を加えた。まず、戦国時代楚の領域から出土した竹簡(楚簡)に見られる動詞「返」の特徴的な表記について検討し、さらにそれを基に伝世文献におけるいくつかの「返」についても新たな解釈を提示した。また曾侯乙墓竹簡と呼ばれる資料は楚系の資料でありながら、「左」「右」の表記が一般的な楚系資料とも、その他の地域とも異なる。しかしその根本的な発想自体は楚と軌を一にしていること、古い特徴を保持している楚タイプの基礎の上に、改新的特徴を有したその他の地域のタイプが覆いかぶさった混合型と考えられることを指摘した。 ③出土資料の解読:本研究では出土資料をなるべく正確に解読することが必要である。その一環として清華大学が近年収蔵した竹簡(「清華簡」)に含まれる、『趙簡子』と呼ばれる文献の詳細な訳注を作成した。またその中で、『趙簡子』が春秋時代・晋の人物である趙簡子を主人公とした文献であるにもかかわらず、楚方言と考えられる要素(時間介詞「就」)が混入していることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は国外学会での口頭発表を3回行い、論文・訳注が各1編刊行された。また論文1編が採録決定済みである。 本研究に関連する出土資料はかなりの量にのぼり、現在も新たな資料が陸続と公開されている。そのためその整理・詳細な検討には様々な困難が伴うが、おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
①引き続き各地域の用字法を整理・検討する。 地理的分布のタイプを整理し、その形成プロセスについても考察を加えていく。 ②楚系資料における例外的な現象を検討する 楚系資料における“楚らしくない”現象を取り上げ、考察を行う。例外的なバリエーションを詳しく検討することによって、文字表記あるいは書記言語における、楚の特徴の形成過程を解明する手がかりが得られることが期待される。
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