発達初期の哺乳類の脳では神経細胞は過剰に樹状突起を伸ばしており、次第にその形態を再編成することで成熟した神経回路を獲得する。この形態再編成は分泌型・膜貫通型タンパクや神経活動などの入力を受けて行われるが、これら2つのシグナルがどのようにして形態再編成を制御してるのかはよくわかっていない。そこで本研究ではマウス嗅覚系をモデルとして、この形態再編成の分子機構を解明することを目的とした。 昨年度の研究によりBMPR2という受容体がLIMKを制御することで、樹状突起の刈込および安定化に寄与することを発見した。またこのLIMKがRac1によって活性化されることで、樹状突起の安定化が促進されることも明らかにした。そこで今年度はBMPのシグナルがどこから来ているのか、またRac1がどのようにして活性化されるのかを調べた。 まずBMPR2と結合する13種類のBMPを対象に、嗅上皮・嗅球で定量的PCRを行った。そして発現していたBMPを1種類ずつ過剰発現させ形態に与える影響を調べた。その結果BMP2/4が樹状突起の刈込を阻害することがわかった。次にin situ hybridizationを行い、BMP2/4の発現細胞が共に嗅球表面に局在していることがわかった。 Rac1は神経活動によって活性化されることがスパインの研究で知られている。それが樹状突起でも起こっているかを検証するため、FRETイメージングを嗅球のスライスサンプルを用いて行った。その結果Rac1がNMDA投与、つまり神経活動によって活性化されることを確認した。 これまでの研究結果より、樹状突起再編成にはBMPと神経活動の2つのシグナルが必要であることがわかった。これら2つの制御があることで樹状突起再編成を厳密にコントロールすることが可能になっているのかもしれない。
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