地震波干渉法に基づき,2008年から2012年までの5年間の東北地方おける地震波散乱係数変化の連続的な空間分布推定を行った。東北地方に設置されている121点の基盤地震観測網 Hi-net短周期地震計で記録された0.125-1 Hzの周波数帯における雑微動記録の相互相関関数のデコヒーレンス値(波形相関の低下量)をデータとし,感度カーネルを用いた線形インバージョンにより散乱係数変化の空間分布を60日間ごとに推定した。推定の結果,2008年岩手・宮城内陸地震に伴い震源域周辺で最大約5.7%の散乱係数変化が検出された他,2011年東北地方太平洋沖地震発生後には東北地方のいくつかの活火山(磐梯山,栗駒山,岩手山)の周辺で2.5-3.6%程度の散乱係数変化が検出された。 地震波散乱係数変化の空間分布を推定を行う際の観測点数の制約という問題を解決するため,少ないデータからでもイメージングが可能であるとされるスパースモデリングを2008年岩手・宮城内陸地震に伴う散乱係数変化の空間分布推定に応用した。2008年岩手・宮城内陸地震の震源域周辺に設置された17点の短周期地震計における雑微動記録を用いて計算した相互相関関数の地震前後でのデコヒーレンス値をデータとして用い,感度カーネルを用いた線形インバージョンにより散乱係数変化の空間分布を推定した。スパースモデリングと広く用いられているインバージョン手法であるL2ノルム正則化の2通りの手法の両方で,震源の南側で顕著な散乱係数変化が検出された。観測点を間引くことで推定に最低限必要な観測点数を検証したところ,スパースモデリングでは5点,L2ノルム正則化では12点の観測点が必要なことがわかった。スパースモデリングを用いることで,これまで観測点数の制約から地震波散乱係数変化の空間分布推定が困難だった地域でも推定を行うことができる可能性がある。
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