研究課題/領域番号 |
18J10269
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
熊代 拓馬 神戸大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 会社法 / 法の経済分析 / コーポレートガバナンス / 非財務情報開示 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、株主による経営者の監視および会社との対話を実効的なものとするために望ましい非財務情報開示制度を解明することである。わが国ではスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが策定され、両コードの下では上場会社の主要株主たる機関投資家が積極的に経営者を監視し、会社と対話をすることを通じて、投資先企業のコーポレート・ガバナンスの向上、ひいては中長期的な成長を実現することが期待されている。株主が監視・対話を行うためにはその対象についての情報が不可欠であるが、わが国においてコーポレート・ガバナンスに関する情報を開示する制度(非財務情報開示制度)はいくつかの問題を抱えている。研究計画初年度である平成30年度は、研究計画に則り、わが国および諸外国における非財務情報開示制度のリサーチを行うとともに、開示情報に基づく監視・対話を行うための法制度について取締役の報酬を梃子に分析を行った。 第一に、従来からの研究を継続・発展させ、わが国、米国、および英国における非財務情報開示制度についてリサーチを行い、法定開示事項等を整理した。 第二に、どれほど充実した情報開示を行おうとも、開示情報に基づいて株主が取り得る是正手段が欠如していると、経営者に対する監視・会社との対話は実効的なものとはならないという見地から、取締役の報酬に対する株主の関与のあり方を梃子に分析を行った(熊代拓馬「『お手盛りの防止』の再検討」神戸法学年報32号67 - 90頁(2019))。 第三に、非財務情報開示制度の実効性を担保する手段として虚偽記載に対する責任追及のあり方への示唆を得るべく、財務情報について説明的記述を行うMD&Aにおける虚偽記載に関する米国の裁判例の分析を行った(熊代拓馬「MD&Aにおける省略と規則10b-5に基づく損害賠償請求」旬刊商事法務2170号52 - 58頁(2018))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究状況は、「研究実績の概要」に記載の通りであり、以下に述べる3つのイレギュラーを加味しても、おおむね順調に進展していると思われる。 研究を進展させるイレギュラーとして、まず、当初、2年度目に予定していた、株主による監視・対話を実効的なものとする他の法制度の活用の分析に前倒が生じている。また、研究計画では予定していなかったが、英国で短期間在外研究をする機会に恵まれ、英国における非財務情報開示制度や株主によるコーポレート・ガバナンスに関する資料収集が大きく進展し、現地の会社法学者との人脈を構築することができた。 他方、研究の進展を遅らせるイレギュラーとして、当初、1年度目に予定していた、諸外国における非財務情報開示制度のリサーチと整理は完遂しておらず、情報開示制度そのものの研究に ついてはやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の研究計画に則り研究を遂行する。すなわち、株主による経営者の監視・会社との対話を実効的なものとするための非財務情報開示制度のあり方を提示するべく、米国・英国の制度設計、議論状況、実務状況の調査・分析を終え、わが国のそれと比較した上で、具体的な解釈論・立法論を提示する。 もっとも、当初の計画では非財務情報を特に限定していなかったが、「研究実績の概要」に記載の通り、とりわけ取締役の報酬に関する株主の関与のあり方について研究が大きく進展したことから、非財務情報の中でも取締役の報酬に絞り体系化することも視野に入れる。また、夏季中に渡英する機会をとらえ、英国における文献調査及び研究者・実務家との人脈の構築も継続して行い、英国における株主による監視・対話を通じたコーポレート・ガバナンスの向上の実務状況等をより具体的に把握したい。
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