研究課題/領域番号 |
18J10278
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中村 遼 関西学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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キーワード | 情報指向ネットワーク / トランスポート層プロトコル / 流体近似モデル / 大規模ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究課題では、大規模情報指向ネットワークのためのトランスポート層プロトコル実現を目指す。2018 年度は、(1) 大規模情報指向ネットワークのスケーリング特性分析および (2) 情報指向ネットワークのためのトランスポート層プロトコル設計・評価に取り組んだ。 まず、研究課題 (1) では、大規模情報指向ネットワークを対象とし、情報指向ネットワークのスケーリング特性 (ネットワークの規模に対して情報指向ネットワークがどの程度スケールできるか) を示した。複数のエンティティ、複数のルータ、単一のリポジトリ (コンテンツサーバ) から構成されるコンテンツ配信木を対象とし、各ルータにおけるキャッシュヒット率や、ネットワーク全体の平均コンテンツ配送遅延を解析的に導出した。いくつかの数値例により、キャッシュサイズが小さくなければ、ルータにおけるキャッシュヒット率はコンテンツ人気度に依らず一定の値に収束することや、ネットワークの規模が無制限に大きくなったとしても、キャッシュサイズが十分に大きければ、ネットワーク全体の平均コンテンツ配送遅延は一定の値に収束することなどを数学的に示した。 研究課題 (2) では、情報指向ネットワークにおいて迅速にパケット損失を検出する機構 Interest ACK (ACKnowledgement) を提案し、パケット損失検出機構 Interest ACK を有するロスベース型トランスポート層プロトコルの有効性を多面的に調査した。シミュレーション実験により、Interest ACK を利用することで、AIMD 型ウィンドウフロー制御の追従性および公平性が向上するとともに、ボトルネックリンクのキュー長の安定化が図れることや、リポジトリにおけるパケット損失を 10~20% 程度削減できることなどを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018 年度において、大規模情報指向ネットワークのスケーリング特性を明らかにするとともに、情報指向ネットワークのためのトランスポート層プロトコルを設計し、多段ネットワークトポロジやダンベル型トポロジなどの小規模ネットワークにおける有効性の評価が完了した。また、大規模情報指向ネットワークにおけるトランスポート層プロトコルの流体近似モデルを基盤としたフローシミュレータの基本的な実装が完了した。 2019 年度では、フローシミュレータの拡張を行いつつ、開発したフローシミュレータを用いて、大規模ネットワークを対象とし、2018 年度に設計した情報指向ネットワークのためのトランスポート層プロトコルの有効性を調査する予定である。 上述するように、当初の研究計画に基づいて研究が進展しているため、本研究課題はおおむね順調にしていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019 年度は、エンティティにおけるトランスポート層プロトコルおよびルータにおける要求パケット集約の相互作用を考慮した、大規模情報指向ネットワークのための流体近似モデルを基盤としたフローシミュレータを用いて、大規模情報指向ネットワークにおける IATP (Interest ACK-based Transport Protocol) の有効性を調査する。 具体的には、まず、情報指向ネットワークにおけるコンテンツキャッシングやコンテンツ集約の影響と、AIMD 型ウィンドウフロー制御方式における制御パラメータの関係をフローシミュレータを用いて調査する。従来のパケットレベルシミュレータを用いたシミュレーション実験により、AIMD 型ウィンドウフロー制御方式における最適な制御パラメータを調査するのは時間計算量および空間計算量の観点から困難ではあるが、フローシミュレータはパケットの流れをフローとしてシミュレートするため高速なシミュレーションが可能となる。そこで、大規模情報指向ネットワークの特性に AIMD 型ウィンドウフロー制御方式が追従できるように、制御パラメータを適切に調整することで通信性能がどの程度改善されるかなどを調査する。 次に、インターネット規模で情報指向ネットワークのためのトランスポート層プロトコルが良好に動作するかを明らかにする。フローシミュレータを用いることにより、数十~数百万ノード、数十~数百万フロー程度の大規模ネットワークを対象とし、配送遅延、スループット、損失率、可用性、安定性、過渡特性、公平性の観点から性能評価を行う。
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