研究実績の概要 |
本研究の目的は量子論の構造を数理的に明らかにすることである。特に近年進展している両立不可能性という操作的かつ一般的な観点から量子論の性質を明らかにすることがこの研究の目的である。また、基礎的な議論のみならず、両立不可能性を応用することも目標としている。 そこでまず今年度は次の研究を実施した。量子論において情報と擾乱の関係を調べた。定量的な情報と擾乱の関係は幅広くしらべられているが、本研究では状態識別能力と無擾乱性を用いて定性的な評価を行った。ここでいう定性的というのは、前順序関係のことである。状態識別能力がより高い測定は擾乱が大きくなることを証明した。さらに、状態識別能力と無擾乱性はそれぞれに対応するベクトル空間の次元を用いて定量化することができる。そこで、この定量化を用いて、状態識別能力と無擾乱性にトレードオフ関係があることを不等式の形で証明した。この結果は、Journal of Mathematical Physics, 60, 082103 (2019)で出版されている。 次に、昨年度のIBM東京基礎研究所におけるインターンシップの共同研究を論文としてまとめた。プレプリントはarXiv:1909.09119にある。この研究は、両立可能性を量子コンピュータアルゴリズムに応用するというものである。具体的には物理量の評価を、複数の物理量を同時に測定することによって高速化するというものである。特に昨年度の研究で扱ったエンタングルした物理量の測定を用いたことが、本研究の特徴である。物理量のエンタングルメントを用いることによって、これまでに利用できなかった同時測定を利用可能にしているので、既存研究よりも測定の回数を減らすことに成功した。
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