研究実績の概要 |
ナノ流路内の特定の領域に対象物質を拘束する手法の一つとして知られるEntropic trapは,一方向の流動を加えることでBrown運動と外力の拮抗による確率的流動を引き起こす.本研究では,ナノ流路における新奇な分子操作技術の確立を目指し,光圧を用いた電気的拘束,Brown運動,イオン誘起流れによるナノ粒子の確率的挙動を解析する.流動するナノ粒子が光圧によって弱く拘束されるとき,粒子はBrown運動によって確率的に拘束から離脱し,下流へと輸送される.この現象は拍動的な粒子輸送手法として期待される. 外力として光圧を加えたLangevin方程式を支配方程式とし,様々なレーザー出力に対して拘束から離脱する粒子数の確率密度を算出することにより,ナノ粒子の離脱の主要因を特定した.すなわち,光圧が流体抵抗よりわずかに弱い場合にはナノ粒子は流動によって押し流され,わずかに強い場合にはBrown運動によって確率的に離脱していることが明らかとなった. また,入力する光圧場として軌道角運動量を有する光渦の理論モデルに基づきナノ粒子の運動を解析したところ,光硬化性樹脂にUV光の光渦を照射した場合に見られるらせんファイバーの形成メカニズムの解明に貢献する成果を得た(R. Nagura et al., OSA Continuum, 2(2019), pp. 400-415).光硬化の初期過程において,モノマー分散液に光が吸収され,核となるナノ粒子が生成されるとする仮説を立て,光圧の影響によりナノ粒子が描くらせん軌道からファイバーのらせん構造を考察した.その結果,ナノ粒子の直径および光硬化性樹脂の吸光係数をパラメータとしてナノ粒子の描くらせん軌道を算出することにより,吸光によって直径10 nmオーダーのナノ粒子が生成されたとすれば,先行研究の実験で得られたらせん構造の周期を再現できることが示された.
|