研究実績の概要 |
現代の徳論、および、それに関連のある実践哲学の諸理論の調査・検討を行った。より具体的には、アリストテレス主義的徳論(Alasdair MacIntyre, Martha Nussbaum, Philippa Foot, Rosalind Hursthouseら)、ヒューム主義的徳論(David Hume、Michael Slote, 林誓雄)、批判的社会理論における内在的批判論(Titus Stahl、Rahel Jaeggi)の三つの立場をそれぞれ調査・整理・検討・批評した。その結果、アリストテレス主義・ヒューム主義・内在的批判論のいずれの立場も、相対主義を退けるために、現代では論証負担の重すぎる形而上学的な概念を組み入れるか、または、それを回避して相対主義を退けられぬことを甘受するか、というジレンマに陥ることを指摘した。より具体的には、アリストテレス主義は「テロスを内在した自然」、ヒューム主義は「一定の水準まで発達が予定された共感能力」、内在的批判論は「自由の実現という目標へ向けて進歩する歴史」という概念を擁護することなしに、相対主義を退けることができないことがそれぞれ批判された。 また、パラオにおいて、第二次世界大戦後すぐから現在に至るまで、年長者への尊敬という価値観および生活スタイルがどのように変化したかをフィールド調査及び文献資料を通じて調査した。調査を通じて、どの情報提供者も年長者への尊敬の程度が小さくなっていることを指摘する傾向にあることが確認できた。また、父母を始めとする年長の親族による日常実践(漁やタロ耕作等)の中での子どもの教育や、コミュニティワークを通じた共同体内での子どもの教育が、学校のような近代的教育制度とは異なる伝統的教育制度として認識されていること、そしてその諸制度が生活スタイルの変化とともに解体していることが確認できた。
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