本年度は、カワゲラ目の系統学的位置の解明・グラウンドプランの再構築に向け、キタカワゲラ亜目の比較発生学的検討を中心課題に設定しつつ、ミナミカワゲラ亜目の発生学的検討にも着手し、以下の3点の研究実績を得た。 1)キタカワゲラ亜目8科、すなわち完舌類のシタカワゲラ科、ホソカワゲラ科、クロカワゲラ科、オナシカワゲラ科、同舌類のヒロムネカワゲラ科、カワゲラ科、ミドリカワゲラ科、アミメカワゲラ科の組織学的検討を行い、これら8科のカワゲラ類で肥厚漿膜細胞および肥厚漿膜クチクラが形成されることが明らかとなった。完舌類のトワダカワゲラ科での先行研究を踏まえると、これらの漿膜由来の特殊構造は本目の発生学的グラウンドプランとして理解できる可能性が高い。上記の成果を国際誌に公表した。 2)トワダカワゲラ科の中腸上皮形成過程の組織学的観察を行い、1)前腸・後腸端部に分化した腸端細胞塊の伸長により中腸上皮が形成、2)腸端細胞塊が内羊膜の外側、すなわち中腸内腔の反対側を伸長することが明らかとなった。さらに、これまではカワゲラ目では腸端細胞塊のみが関与するとされていた中腸上皮形成において、3)卵黄細胞が内羊膜の内側、すなわち中腸内腔側に着床し、中腸上皮形成に関与する可能性が示唆された。これは卵黄細胞が中腸上皮形成に関与しないとされている新翅類では特筆すべき結果である。 3)これまで発生学的知見が未知であったミナミカワゲラ亜目について、ニュージーランドにおいて現地の研究者と合同調査を行い、Eustheniidae、Austroperlidae、Gripopterygidaeの採集および採卵に成功した。現在、3科の卵構造の形態学的データをまとめ、国際誌に投稿する準備を進めているほか、AustroperlidaeおよびGripopterygidaeの発生学的検討に向けた条件検討を実施中である。
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