前年度の研究において、電場を利用してハイドロゲルの表面に高分子電解質を集積、高い弾性率を有するポリイオンコンプレックスを形成させる新規手法を開発した。この手法では、表面のポリイオンコンプレックス層とハイドロゲルの弾性率差から生じる応力のミスマッチを緩和するためにゲルの表面が座屈し、リンクル構造が形成すると考えられる。この手法は従来のリンクル形成手法に必要であった基材の延伸操作を必要としないため、あらかじめ基材であるゲルを一軸延伸することで、表面に異方的な応力を発生させることができれば、配向リンクル構造が形成すると考えた。 実際に、一軸延伸した状態でリンクル構造を電気泳動成形したゲルの表面には、延伸率の上昇に伴ってランダム、ジグザグおよび直線状の3つの構造が観察された。これらの配向方向は延伸方向に対して平衡であった。さらに、高延伸率のゲルを用いた場合、延伸を除荷すると電気泳動後の配向リンクルと直交した配向リンクル構造をもつ階層的リンクル構造が形成した。 リンクル構造はゲル-ポリイオンコンプレックス層間の弾性率差に影響を受けると考えられるため、外部刺激に応答し物性が変化する刺激応答性ハイドロゲル表面に配向リンクル構造を形成させた。刺激応答性ハイドロゲルとして、32℃で下限臨界溶液温度型の温度応答をを示すポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲルを選択した。興味深いことに、20℃ではジグザク、階層構造であったリンクル構造は、50℃に加温することでいずれも直線状へとその構造が可逆的に変形した。 以上のように、形状を可逆的にスイッチング可能なハイドロゲル表面リンクル構造を形成した。このハイドロゲル表面リンクル構造は、水中におけるマイクロマニピュレータや細胞の培養基材等への応用が期待される。
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