本研究では、ジアリールエテンを用いた様々な外部刺激に応じて複数の蛍光色と消光状態を自在にスイッチングできるマルチカラー蛍光ON/OFFスイッチングシステムの構築を目指している。昨年度、その一連の研究の過程でジアリールエテンのエテン部位をテトラフルオロベンゼンに置換したジアリールベンゼン誘導体が紫外光照射下で着色し、室温での半減期が130 msという非常に高速な熱退色反応により元の無色の状態へ戻ることを新たに見出した。これを用いることにより、紫外光のみで発光と消光状態を切り替えできる蛍光ON/OFFスイッチング分子を開発できると考えられる。そこで本年度は、蛍光スイッチングに向けたジアリールベンゼン誘導体の設計、合成、および特性評価を行った。ジアリールベンゼンの末端に様々な電子供与性基を導入すると、熱退色反応速度は遅くなった。ハメットの置換基定数を用いた理論的解析の結果、置換基の電子供与能に比例して熱退色反応が遅くなることが明らかとなった。また、ジアリールベンゼン誘導体の設計指針の確立のため、密度汎関数理論を用いた物性予測を試みた。様々な計算手法を検討し、ジアリールベンゼン誘導体の物性をよく再現する計算手法を見出した。その計算手法を用いた量子化学計算によって様々なジアリールベンゼン誘導体の光学および熱特性を予測し、それに基づき新規ジアリールベンゼン誘導体を合成した結果、熱退色特性を維持したまま光学特性のみを変化させることに成功した。さらに、ジアリールベンゼン誘導体のアリール位をチオフェンからチアゾールあるいはオキサゾールに置換することで熱退色反応を抑制するとともに光閉環反応性を向上させ、紫外光照射下でより濃く着色させることに成功した。
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